「あー…ねっむ…」
5時間目終わりのチャイムが鳴った瞬間、誰も見てないのをいいことに僕はがっつりあくびをする。
そのついでに体をぐっと伸ばすと、座りっぱなしで固くなっていた肩がバキバキ音を立てた。
その音でなんとなく目が覚めた僕は、机に広げていた言語文化の教材を回収して廊下へ向かう。
「あー、最っ悪…」
テンションの低い声に振り向くと、緋由が今にも泣き出しそうな表情を浮かべて僕の肩を掴んできた。
「もー、寝てたら普通に見つかってめっちゃ注意されたー」
アリーナ席で授業中堂々と寝られるなんて、と思っていると、その思いが緋由に伝わったのか「人類は眠気には勝てねーからどーしよーもねーよ」と開き直られた。
「まあ、あながち間違ってはいないけど…」
納得できるようなできないような緋由の謎理論に首を捻っていると、後ろから「おーい」と見知らぬ男子の声がした。
「俺呼ばれたから、また後でな」
掴んでいた肩をパッと離した緋由が、その男子の方に歩いていく。
ちょうどそこで僕のひとつ下のロッカーを漁っていた女子がその場から立ち去った。
それを横目に、一歩前に出る。
そして『8』と書かれたロッカーの前でしゃがみ込み、ダイヤルを回して扉を開けた。
ロッカーの中で乱雑に積まれた教材が地層のようになっている。
いつものことなので特に気にせず、僕はその中から次の授業の教材を引っ張り出す。
「笠原くん…これ」
小さいのにやけによく通る声に振り向くと、そっと僕に古文の単語帳を差し出す織宮さんと目があった。
「あ、ありがと」
単語帳を受け取り、後ろの記名欄を確認する。僕の字で自分の名前が書かれていた。
僕はロッカーに単語帳をしまい、扉を閉めて立ち上がる。
ちょうどその時、僕を引き止めるように織宮さんが口を開いた。
「うん。あのさ…」
織宮さんが髪を耳にかけて軽く俯いた瞬間、校舎に6時間目の開始を告げるチャイムが鳴り響いた。
「後で話すね!」
それだけ言い残した織宮さんが、僕の横をさっと通り抜けて教室に入ってしまう。
「起立、これから6時間目の授業を始めます」
号令係の女子生徒の明瞭な声が、教室に響く。
クラスメイトたちの動きに合わせて、起立礼着席の一通りをこなす。
でも僕は織宮さんの声と表情が脳内に焼きついて、悶えてしまいそうだった。



