「アリーナ席なんてクソやー」
昼休み。僕の机に勝手に尻を乗せた緋由が、うっすら本気のトーンを含んだ声で泣きついてきた。
「知らんし…あ、唐揚げ」
緋由の声を適当に聞き流して弁当箱を開けると、昨日の晩ごはんの残りの唐揚げ。僕の好物だ。
箸で唐揚げをつまんで口に運ぶと、教室前方の扉がガラッと開いた。
「結羽ちゃーん、一緒食べよ!」
明るい声とともに、見知らぬ女子生徒が癖っ毛ボブをふわふわと揺らしながら教室に入ってきた。
織宮さんが、廊下側の一番後ろの席から立ち上がって柔和な笑みを浮かべる。
そのまま彼女は弁当袋片手に、空席になっている窓から2番目の列の一番前の席にすとんと腰掛けた。
窓際の一番後ろの自分の席に座っている僕には表情が見えないが、織宮さんがなんとなくどういう表情をしているかは想像がつく。
「あ、俺パン買ってくるわ」
「あ、じゃあ先食べとく」
緋由が机から降りて、まっすぐ自分の席に戻っていく。
僕も机の横にかけていたカバンから弁当の入った黒い保冷バッグを取り出して、机に置く。
なんとなく視線を上げたときに見えた、財布片手に教室を出て行く緋由から視線を外して、自分の弁当箱に目線を落とす。
目線を落とすその途中、ふと後ろを振り返った織宮さんと目が合った。
その一瞬、見開かれた彼女の目がふっと複雑に伏せられる。
癖っ毛ボブの女子が何か口を動かした瞬間、彼女が僕から視線を外した。
癖っ毛ボブの女子と織宮さんが再度話に花を咲かせるのを横目に、僕は弁当を開けて割り箸を割る。
「はぁ…」
左右非対称な割れ方をした箸片手に、僕はがっつりため息をついた。



