S駅で織宮さんとしゃべった翌日の水曜日。
朝礼終わり、見原から受け取った学級日誌をぱらぱらめくっていると、前のページに書かれた猫の絵にふと視線が止まった。
饅頭のようなフォルムの猫の下に、赤ペンで『かわいいネコちゃんですね みはらより』とコメントがついている。
整然と並んだ右上がりの字の主を確認しようと、記名欄に視線をやった僕は思わず目を疑った。
――織宮さん?
喉元まで上がってきたその6文字をなんとか飲み込み、もう一度記名欄を確認する。
何度確認しても、そこに書いてあるのは『織宮結羽』だ。
「お前ニヤニヤしててキモいで」
聞き慣れているはずの声が一瞬誰のものかわからなくなってしまったので、のろのろと顔を上げて声の主を確認する。
「あ…」
目の前に緋由がいるのはわかっているが、どうしても焦点が合わない。
「そんなおもろい日誌なんやったら見してや〜」
机に置いていた日誌をぱらぱらめくって中身を確認していた緋由が、手を止めて僕の顔をじっと見てきた。
「日和、顔怖いって」
「別に…?」
緋由の言葉に意識的に首を傾げると、薄く目にかかった前髪が揺れたのがわかる。
「あ、そ。」
不服そうに口を尖らせた緋由が、首を捻りながら僕の前から離れていく。
その後ろ姿に、僕は思わず正体不明のため息をこぼした。



