「まじ可愛いやん。LINEかインスタ交換しよ」
吊り革を持ち直して体の向きを変えると、男の体で隠れていた彼女の顔が見えた。
「え…っ」
吸い込みすぎた酸素が、僕の喉の奥を軽く焼く。
大学生くらいの男――見た目だけで言ってしまえば清潔感があってモテそうな男に話しかけられていたのは、織宮さんだった。
俯いてスマホを触ってやり過ごそうとしているのか、織宮さんと僕は目が合わない。
いつもはきっぱりしていて迷いのなさそうな織宮さんの人差し指は、今だけはわずかに震えている。
「無視?ひどくない?」
語尾に『笑』がつきそうなほど軽い男の声が、僕の心に不快感を運んでくる。
「LINEもインスタもやってないので、ごめんなさい」
織宮さんの声は、教室で聞いた時よりもずっと硬く張り詰めていた。
「えー、嘘でしょ?現代のJKでLINEもインスタもやってないなんてことある?」
男が織宮さんの方に体を傾けたその瞬間、何かに突き飛ばされるような焦燥感を感じた。
「あ、古東中の結羽ちゃんやんな?」
乗客の波をかき分け、男と織宮さんの前に立つと、びっくりするくらいスラスラと言葉がこぼれた。
僕の嘘に、織宮さんが目をぱちぱちと瞬かせる。
「はぁ?お前誰?」
男の質問に嘘を返すと、先ほどまでは織宮さんに向いていた男の目が僕の方に向いた。
「中学の同級生です」
その目が、鋭さとねっとりした気持ち悪さを帯びている。
「ちょっとしゃべりたいんで、すいません」
織宮さんと男の間にさりげなく体を滑り込ませ、形だけの礼をして男の前を後にする。



