「最寄りU駅なんだ。結構遠くない?」
僕の左隣に織宮さんがいて、僕のためだけにしゃべってくれる。
最初に言い出したのは自分なのに、たったそれだけの出来事に現実感がなくて、そわそわしてしまう。
「まあ、毎日のことやしあんま気にならへんかな。強いて言うなら家から駅遠いってくらいかな…あ、てか織宮さんの最寄りってどこなん?」
勢いに任せて一言目を言い放ち、動揺を悟られないように言葉を何層にも重ねる。
「S駅。私も家から駅遠いんよなー」
1歩先を歩く織宮さんの紺色のスクールバッグについたシナモロールのキーホルダーが、彼女の歩調に合わせてリズムよく揺れる。
高揚感からかズレてしまっていた歩調を、織宮さんのキーホルダーをメトロノームにして整えてから、口を開く。
「今日バイトやからS駅やわ」
「へぇ、バイトしてるんや。どこで?」
織宮さんが横断歩道で立ち止まって振り返る。
その動きに合わせて、僕の方を向いていたシナモロールがくるりと背中を向けた。
「S駅の近くのファミレス。」
「…すご。私できる気しない」
信号が青に変わったので、僕たちはなんとなく並んで横断歩道を渡る。
右隣に立つ織宮さんの髪に艶やかな天使の輪ができているのを見て、ひとつ言いたいことが胸の中に浮かんできた。
――なんの柔軟剤使ってるんだろ?
その疑問は気恥ずかしくてストーカーじみていたので、脳内で『Backspace』を連打して取り消す。
話題も尽き、僕は逃げるように歩幅を大きくして織宮さんを追い越して強制的に彼女を視界から消し去った。



