入り口に置いていたカバンを肩にかけると、織宮さんも同じようにカバンを手に持って僕の2歩先を歩き出した。
1階から2階に向かう踊り場にたどり着いたところで、「課題大丈夫やった?」と彼女が口を開く。
「まあ、なんとか」
少し緩くなった彼女の歩調に合わせて、僕も少しスピードを緩める。
「よかった」
下駄箱から黒いローファーを取り出した織宮さんが振り返って、ふっと淡く柔らかい笑みを浮かべた。
放課後の解放感からなのかなんなのかはわからないけど、その笑みがいつもより秘密めいた柔らかさを孕んでいる。
「笠原くんって電車やっけ?」
手を伸ばせば普通に届いてしまいそうな距離に、好きな人――織宮さんがいるという事実が、僕の心に静かに熱を灯す。
「うん。…方面一緒やったら、一緒に帰ろ」
僕の口からさらりと流れた言葉に、織宮さんが足を止めて僕の目をじっと見てくる。
「いいよ」
彼女の黒く澄んだ双眸が、少し勢いの衰えた16時の光をわずかに反射させる。
僕は靴を履き替えて、昇降口を出た先のツツジの植え込みのそばで待つ織宮さんを追いかけた。



