近くにいるための嘘

ねえ、なに、その顔。
なんで、ねえ、紬ちゃんのこと、知ってるの?

ずっと見ていたから分かってしまった。
……悠太郎くんは、紬ちゃんに惹かれている。

知りたくなかった。
やめて、私のことだけ見てて。

「悠太郎くん、私のパンも食べてみて」
「これ知ってる?商店街の限定のやつ」

先輩たちが口々に話しかける。

「うん、食べる。1個ずつ貰うね。」

先輩たちに答える悠太郎くんは、もういつもの悠太郎くんだった。

「おいしいー?」
ねえ、お願い、こっち見て。

「うん、どれも美味しいね。連れてきてくれてありがと。」
悠太郎くんがこっちを向いて笑ってくれる。

「また来て!誘うから!」
良かった、こっち見た。

「うん、来る」

そう言いながら、悠太郎くんは誰かを探すように周りを見回した。

「……さっきの子、探してるの?」

「あ、ちょっとね」
「……パン、美味しかったから」

誤魔化すように話すのが嫌だった。

「帰っちゃったみたいだね?」
帰ってくれて良かった。
二人が話すところなんて、見たくなかった。

好きな人の好きな人なんて、知りたくなかった。