近くにいるための嘘

「悠太郎くんっ」
「今帰り?一緒に帰ろ」

勇気を出して声を掛けてみる。

「お、美桜ちゃん。いいよ、帰ろ」

駅に向かって並んで歩く。
夢みたいな時間。

「最近、悠太郎くん人気者だね」
少し寂しくて意地悪な言い方をしてしまう。

「あー、なんかね、俺の番組出演してた時の動画が出回ってるみたい」
悠太郎くんが苦笑いする。

「あのとき、皆見てくれてたら良かったのにね」
悠太郎くんが脱落した時のことを思い出して、胸が苦しくなる。

「いつ見つけてくれても嬉しいけど」
「美桜ちゃんみたいにあのとき見つけてくれてたのはやっぱ嬉しい」
「美桜ちゃんは特別だよ」

……特別。
私、悠太郎くんの特別?

「美桜ちゃんの応援に応えられるように頑張らないと」

私の応援が、直接推しに伝わっている。

「……十分だよ」

そんなの、もう、存在だけで、十分だった。