近くにいるための嘘

「藤野さん、さっきごめんね」
気が付くと後ろにYUTAROくんが立っている。

……ていうか、名前。覚えてくれたの。

「ううん、大丈夫。……慣れてるし」

「あ、そうだよね、ごめん。可愛いもんね」

心配かけたくなくて言った一言が、多分変な風に取られた。
……え、待って。可愛いって言った?
推しの可愛いとか、無理です。爆発しそう。

「じゃあ」
YUTAROくんが背を向ける。

「NOVA見てた」
引き止めたくて、思わず口から出てしまう。

「……え?」

「ずっと、投票してた」
えーい、もうヤケクソ。言ってしまえ。

YUTAROくんがみるみる笑顔になる。
「……まじ?」
「俺、初めて生で会ったわ」
「ありがとう」

手を握られる。
……待って待って。急に手汗とか出てこないで。
ほんと無理。やめて。

「推しが同じ学科で、びっくりした」
なんで私の口、勝手に色々喋るの?
もう待って、無理だよ。黙って私。

「美桜ちゃんって呼んでいい?」
「これからよろしく」
嬉しそうにYUTAROくんが言ってくる。
あ、これからは悠太郎くん。

「うん、私も悠太郎くんって呼んでいい?」

「いいよ」
「美桜ちゃん、またね」

「またね」
やばい、口元が緩む。
あー、気持ち悪いとか思われたかな。

もういい、この際どうにでもなれ!

「ノバってなに?」
「あの人、有名なの?」

莉子が聞いてくる。

「オーディション番組」
「……めっちゃかっこいいの」