本好きで恋愛苦手な私が推し小説家に溺愛されるまで


 藍堂先生の荒げた声が耳に飛び込んで来て、私は先生の方を振り返る。
 聞こえた内容からして、嫌な予感しかしない……。

「……はい……はい。では……」

 電話を切った藍堂先生の顔色がめちゃくちゃ悪い。
 藍堂先生は俯いて深く深く溜め息を吐いてから、低い声で呟いた。

「とある文芸雑誌の短編仕事が……新人編集の伝達ミスで、締切は3日後の18時だそうだ」
「ええーっ!? そんなひどすぎる……!」

 思わず本音が出てしまった。そりゃ穏やかな藍堂先生も声を荒げるよ。
 藍堂先生は怒りを鎮めるためか、目を瞑っている。
 そして、静かに目を開いた。

「それでも、読者が待っているから書くしかない」

 藍堂先生の凛とした声に胸がぎゅっとする。
 いちファンとしても、力になりたいと思った。

「先生が執筆に専念できるよう、私ハウスキーパーの仕事を今日からやります。やらせてください」

 私の申し出に、藍堂先生は力なく微笑み、「ありがとう。必要なものはここから購入を。外出は自由にしてくれて構わない」と家の合鍵と銀行の封筒を私に渡すと、書斎に向かって歩き出した。
 私はちらっと時計を見やる。時計は15時過ぎを指していた。

「何か飲み物を用意しましょうか」
「そうだな、コーヒーをたっぷり淹れて持って来てくれ」
「かしこまりました!」

 藍堂先生が書斎に入ったのを見届けた私は、すぐにキッチンに行った。