【大河ドラマ】忙しい人のための新・安倍晴明物語

 天慶五年(942)秋、晴明は玉屑を赤山禅院に案内する計画を賀茂忠行に打ち明ける。赤山禅院は泰山府君が赤山明神の名で祀られており、陰陽師たちがよく出世を祈願するために参拝する寺院である。忠行から「赤山禅院で玉屑の願いを叶えるのか」と驚かれた晴明は呆れ果て、大きな誤解だと否定する。屋敷に籠もりきりで退屈そうにしている彼女のために、色鮮やかな紅葉を見せれば気晴らしになるだろうと考えたのだ。忠行は安堵し、晴明に玉屑を丁重にもてなすよう念を押した。陰陽道の祖神の娘がただの人間を気にかけるのは、奇跡に等しいのだと。

 賀茂邸から赤山禅院までは約二時間かかるため、晴明は早朝に玉屑を連れて出発した。二人は川沿いに進み、忘川を想起した玉屑は晴明との出会いを回顧する。あの童子が今や月も光を消し、花も姿を恥じらうような美青年になるとは想像もしなかったと。そして、今や毎日顔を合わせる仲であるのに、一向に逢坂の関を越えられずにいる現状を嘆いた。晴明は相手にせず、彼女の手を引いて足早に赤山禅院へ向かった。

 赤山禅院の真っ赤な紅葉を目にした晴明は、地獄の業火もこのような色なのかと玉屑に尋ねる。だが、玉屑は未だかつて地獄を訪れたことがない。過保護な炳霊帝君が地獄の凄惨な光景を玉屑に見せまいとして、彼女を地獄に入れなかったのだ。玉屑は紅葉を恋の炎にたとえ、晴明を呆れさせた。

 晴明は一通り境内を案内し、最後に相生社の前を通りかかった。縁結びのご利益があることで有名な祠である。晴明はそのまま通り過ぎようとしたが、玉屑が興味を示したので渋々立ち寄った。

 玉屑が縁結びの祈願をしようとしたので、晴明は彼女を制止した。わざわざ祈願する必要はないし、玉屑の父君や兄君は彼女の願いを手助けしないだろうと。玉屑は晴明の言葉の真意が分かりかねた。晴明は遠回しに自分の気持ちを伝える。祈願とは、まだ成就していない事柄に対してするものだと。玉屑は不満を漏らした。「肉体が交わらなければ、本当の意味で結ばれたとは言い難い」と。

 晴明は赤山禅院を出発しようとするが、玉屑はその場にしゃがみ込んだ。疲れて動けないのだ。晴明は玉屑を優しく諭し、立ち上がらせる。「少し歩いた程度で疲れ果てていては、私の夜の相手など務まらない」と。そのようにして、二人は帰路に着いた。

 二人が帰宅すると、屋敷の前で何やら大型の家具が運び込まれている。藤原忠平が彼の家人たちに指示し、御帳台を玉屑の部屋に運ばせているのだ。ちょうど忠行もその場にいた。二人に気づいた忠行は慌てて駆け寄り、玉屑に事の経緯を説明する。玉屑のような神聖な仙女を地べたに寝かせるわけにはいかないので、忠平に頼んで寝台を手配してもらったのだ。完成までに数か月を要し、届くのが今になったという。対屋に戻った玉屑は立派な御帳台を見て感激し、晴明との情事に思いを馳せる。彼女は今夜こそ逢坂の関を越えてみせると張り切り、あれこれと準備をするが、結局は旅の疲れでその夜を寝過ごしてしまった。

 天慶五年(942)冬、賀茂保憲は文武兼に呼び出され、造暦の功績を称えられる。武兼は玉屑の話題に触れ、保憲に陰陽師の仕事を与えたいという。今や、保憲は平安京で式神を従えている唯一の人間である。ただひたすら暦本を作っているだけでは、玉屑は式神として活躍できる場がない。こうして、通常なら暦得業生が陰陽師の仕事を兼ねるまでに三、四年はかかるところを、保憲はたった一年でその夢が叶った。

 忠行が息子の昇進に喜んでいるところへ、玉屑が訪ねてきた。彼女は冥界では経験したことのない寒さに凍えていた。晴明は「陽光に当たらない冥界より平安京のほうが寒いのか」と疑問に思うが、忠行は慌てて布団の代わりになる衣をかき集めてこようとするが、玉屑は制止した。彼女は晴明を見ながら「九尾の狐の毛で織った皮衣でなければ、真に暖まることはできない」と言った。忠行は「かぐや姫のような無理難題を言うお方だ」と途方に暮れた。晴明が玉屑の言葉を本気にせず放置している間に、彼女は寝込んでしまった。丹波康頼が診察したところ、風邪を引いていた。九尾の狐の皮衣は、まだ見つからずにいる。せっかく保憲が陰陽師になれたところに玉屑が体調を崩し、晴明以外の誰もが保憲の前途を案じていた。

 その夜、晴明は人知れず玉屑の部屋を訪れた。御帳台に上がった晴明は彼女が熟睡していることを確かめ、口づけをする。唇が触れ合う間、晴明の霊力が玉屑に流し込まれた。やがて玉屑が目を覚ますと、晴明は唇を離した。玉屑の期待とは裏腹に、晴明は愛情をもって口づけをしたのではなかった。彼女の魂が希薄になっていて、他に霊力を注ぐ方法がなかったのだ。玉屑は保憲の前途に必要不可欠であるため、冥界に戻られては困ると。さらに、晴明は「玉屑が習得している法術を全て教えろ」と迫るのである。