「今日は暑いですねぇ」
わたし川瀬なの。
……あれから何とかあって穂高くんは学校に行くことにしたらしい。
あの顔色なら休んだほうがいいと思うんだけど。まぁ本人が決めたことならって感じだし。
それで学校に行こうとしたけど、道を知らないから教えてくれなんて言われちゃって。
イケメンと並んで道を歩いているわけなんですけど……。
「まぁ、あの子とってもハンサムじゃない」
「男前ねぇ……」
近所の人にコソコソ言われてるし。
これだからイケメンと歩きたくないんだけど!?
とうの本人は何も気にしてない様子で、わたしがどの方角行くかをチラチラ横目で見てる。
道知らないもんね。
どうやら彼は土地勘がないらしくて方向音痴らしい。
しばらく一緒に帰らないとね。絶対1人で帰れないし。
わたし通学路はこの学校―!!ってくらい道が複雑だったし。
わたしも最初は迷ったな……。懐かしい。
「川瀬。つぎはどっち行くんだ?」
「えっと、右です……穂高くんそっちは左ですよ?!」
わたしがそういうやいなや、穂高くんは左へ歩こうとする。わたし右って言ったんだけど……。
次からは手ぶり身振りで伝えたほうがいいかもしれない。
わたしは彼の袖をひいてグイグイと進む。
穂高くんは最初、驚いた顔をした。
だけど途中から(俺方向音痴だから川瀬について行ったほうがいいな)みたいな感じで納得したのか、今はわたしの言う通りに歩いてる。
そんなこんなしてたらいつの間にか学校が見えてきた。
ほら、穂高くん君が通う学校だよ。
穂高くんは目新しい学校にキラキラと目を輝かせている。
……なんか小動物みたい。身長は高いのに仕草ひとつひとつがうさぎみたいで。
学校の近くになると、だんだん生徒たちの数も増えてきた。生徒たちは見慣れないイケメンに戸惑っているみたいでザワザワとしている。
それでわたしも見られてるんだよね。
あの子なんでイケメンと歩いてんのよ、みたいな視線がグササっとわたしにささる。
「ねぇ、あのイケメン誰?」
「見慣れない人だし転校生とかじゃない」
「それだったら神すぎるんだけど!」
「たしかにね、ていうか日直だよ」
「やば!早く学校に入らなきゃ」
そう二人でコソコソと話しているのはクラスメイトの
湊さんと小豆沢さん。わたしは1回も話したことがない、彼女たちは俗に言う陽キャってやつでクラスでは中心的人物だ。
……そろそろ穂高くんの袖掴むのやめよっと。
この人が心配だから掴んでたけど、これがきっかけで色んな人から「もしかして穂高くんと付き合ってる?!」なんて聞かれたら面倒極まりないし。
✽ ✽ ✽
「実はこのクラスに転校生が来ることになりました。
じゃじゃーん穂高くんです!」
今は担任の橘先生が穂高くんのことを紹介している。
みんなはこの時期に来る転校生に興味津々。
学校についた時点であんなに騒がれてたんだもん、そりゃ騒がれないわけないよね。
当の本人は新鮮、という顔で教室を見ていた。
……体が弱くて学校行ってなかったとか?
なんにせよ教室を珍しそうに見る人なんて穂高くんぐらいだよ。
「じゃあ席は川瀬さんの隣で」
「……へ?」
あれ?とわたしは首をかしげる。
たしかにないはずの隣の席があったけどさ……。
「川瀬さん、隣の席だから穂高さんのことをよろしくね」
「えっ、あ……はい!」
よろしくもなにも、すでに同居してるなんて言えるわけなく……。わたしはぐぎぎぎっと笑顔を作った。
穂高くんは、わたしの隣の席を見つけるとにこっと花が咲いたような笑顔で席に向かってくる。
やめて?!そんなことしたらクラスメイトに怪しまれちゃうよ。……現にクラスメイトの視線は穂高くんではなく私に向かれていた。
「え、川瀬さんの隣なのズルくない?」「あの子より私達方がいいのに」みたいなコソコソ話も聞こえてくる。
「はい皆さん静かに。穂高くんこれからよろしくお願いしますね」
そう先生が言うと穂高くんは「はい」と礼儀正しく返したのだった。
……まさか同じクラスの、それもとなりの席になるなんて思わなかった。
さすがにクラスは離れると思ったのに。
思わずため息をつきそうになったがグッとこらえる。
そんなことをしたら穂高くんの顔がシュン、とまるで子犬のように縮まってしまいそうだったし。
「それでは1時間目が始まるので別のクラスに行ってきますね」
先生はそう言って荷物をまとめ、隣のクラスへ向かったのだった。
✽ ✽ ✽
1時間目の授業が始まった。
穂高くんが教科書を持っていない、なんてトラブルはあったけど先生の「川瀬さんに見せてもらいなさい」って声で解決した。
今は先生が淡々と教科書の内容を説明しているんだけど、教科書を忘れた本人はぼーっと窓の外を見ている。
物思いにふけっているイケメンって感じ。そんなイケメンにクラスの女子はソワソワ。
授業に集中できない人が多いみたい。
今日初めて穂高くんと会ってたら同じだったかもしれないな。こんなイケメンがクラスにいるとか神すぎるし。
「〜〜だからこうなるんだけど、穂高さん」
「えっ……あっ、はい」
「ここの答えはなんだと思う?」
「……すみません、カラスがかわいかったから外を見てて授業を聞いていませんでした」
……窓を見てたのカラスがかわいかったからなんだね。
なんとも言えない回答に先生もおどろいたような顔で固まっている。
「カラス……?」
「はい、カラスです。かわいいですよね」
「え……うん。先生カラスがかわいくて聞いてない人初めて見たよ」
ちなみにその後、先生にどこか教えてもらった穂高くんは完璧な回答を導き出していた。
さっきまでカラスを観察していた人とは思えないな。
頭の切り替えが早いのかも。いや知らんけど。
「あっ、筆箱に消しゴム3個あった」
「多くないですかそれ」
「俺消しゴム最後まで使い切れたことなくて……
なんでだろう」
「よく無くしてるんじゃないですか?」
そのあとも穂高くんは、突飛な発言をたくさんし……
自由人というか、天然。みんなもそう思ったらしく
クラスメイトからは〝天然〟と認定されている雰囲気が出ていた。
✽ ✽ ✽
「なんで……」
ホームルームが終わり本来は静かな教室……なんだけど、生徒たちでいっぱいだった。
なんでかは分かるよ……。今日移動授業多くてあんまり質問できる時間なかったもんね。
クラスメイトの気持ちにうんうん、と共感をしていたけれど……普通に帰りたい。
行く途中あんなに方向音痴を発揮していた穂高くんを置いて行ける訳もなく、わたしは席にジッと座っていた。
となりで穂高くんは質問攻めにあっていた。
「ねぇねぇ、どこから来たの?」
「北海道……」
穂高くんは質問に単語で答えている。
学校で疲れたんだろうな。
「思うんだけどさ……」
「どうしたの?」
穂高くんの言うことにクラスメイト(特に女子)が注目していた。
「教科書って振ったらキレイになると思わないか?」
「……へ?」
穂高くんの斜め上の言葉に、食い気味に質問に頷いていたクラスメイトたちも、面食らった顔をする。
もちろん私も面食らったが、今まで穂高くんと過ごしてきたぶん少し耐性があった。
だからなのか
「キレイになるかもしれませんけど!?」
と、とっさにツッコんでしまった。
わたしの発言にクラスメイト達がドカッと沸いた。
自分でも漫才みたいなことしたな……って一瞬思った。
だけどこの隙に帰れそう……もしかして今が帰るチャンスなのでは?!
「ではみなさん、さようなら!
穂高くん帰りますよ!」
「えっ……川瀬待って!?」
すこし強引かもだったけど無事帰れるってわけで、わたしは少しホッとした。
クラスメイトたちはポカンとしていたけど、疲れ切っていた当の本人は「川瀬もそんなことするんだな」と感心した様子だった。
「あの……穂高くん」
「……なに?」
「教科書は降ってきれいにするものでは無いですからね」
「………え!?」
わたし川瀬なの。
……あれから何とかあって穂高くんは学校に行くことにしたらしい。
あの顔色なら休んだほうがいいと思うんだけど。まぁ本人が決めたことならって感じだし。
それで学校に行こうとしたけど、道を知らないから教えてくれなんて言われちゃって。
イケメンと並んで道を歩いているわけなんですけど……。
「まぁ、あの子とってもハンサムじゃない」
「男前ねぇ……」
近所の人にコソコソ言われてるし。
これだからイケメンと歩きたくないんだけど!?
とうの本人は何も気にしてない様子で、わたしがどの方角行くかをチラチラ横目で見てる。
道知らないもんね。
どうやら彼は土地勘がないらしくて方向音痴らしい。
しばらく一緒に帰らないとね。絶対1人で帰れないし。
わたし通学路はこの学校―!!ってくらい道が複雑だったし。
わたしも最初は迷ったな……。懐かしい。
「川瀬。つぎはどっち行くんだ?」
「えっと、右です……穂高くんそっちは左ですよ?!」
わたしがそういうやいなや、穂高くんは左へ歩こうとする。わたし右って言ったんだけど……。
次からは手ぶり身振りで伝えたほうがいいかもしれない。
わたしは彼の袖をひいてグイグイと進む。
穂高くんは最初、驚いた顔をした。
だけど途中から(俺方向音痴だから川瀬について行ったほうがいいな)みたいな感じで納得したのか、今はわたしの言う通りに歩いてる。
そんなこんなしてたらいつの間にか学校が見えてきた。
ほら、穂高くん君が通う学校だよ。
穂高くんは目新しい学校にキラキラと目を輝かせている。
……なんか小動物みたい。身長は高いのに仕草ひとつひとつがうさぎみたいで。
学校の近くになると、だんだん生徒たちの数も増えてきた。生徒たちは見慣れないイケメンに戸惑っているみたいでザワザワとしている。
それでわたしも見られてるんだよね。
あの子なんでイケメンと歩いてんのよ、みたいな視線がグササっとわたしにささる。
「ねぇ、あのイケメン誰?」
「見慣れない人だし転校生とかじゃない」
「それだったら神すぎるんだけど!」
「たしかにね、ていうか日直だよ」
「やば!早く学校に入らなきゃ」
そう二人でコソコソと話しているのはクラスメイトの
湊さんと小豆沢さん。わたしは1回も話したことがない、彼女たちは俗に言う陽キャってやつでクラスでは中心的人物だ。
……そろそろ穂高くんの袖掴むのやめよっと。
この人が心配だから掴んでたけど、これがきっかけで色んな人から「もしかして穂高くんと付き合ってる?!」なんて聞かれたら面倒極まりないし。
✽ ✽ ✽
「実はこのクラスに転校生が来ることになりました。
じゃじゃーん穂高くんです!」
今は担任の橘先生が穂高くんのことを紹介している。
みんなはこの時期に来る転校生に興味津々。
学校についた時点であんなに騒がれてたんだもん、そりゃ騒がれないわけないよね。
当の本人は新鮮、という顔で教室を見ていた。
……体が弱くて学校行ってなかったとか?
なんにせよ教室を珍しそうに見る人なんて穂高くんぐらいだよ。
「じゃあ席は川瀬さんの隣で」
「……へ?」
あれ?とわたしは首をかしげる。
たしかにないはずの隣の席があったけどさ……。
「川瀬さん、隣の席だから穂高さんのことをよろしくね」
「えっ、あ……はい!」
よろしくもなにも、すでに同居してるなんて言えるわけなく……。わたしはぐぎぎぎっと笑顔を作った。
穂高くんは、わたしの隣の席を見つけるとにこっと花が咲いたような笑顔で席に向かってくる。
やめて?!そんなことしたらクラスメイトに怪しまれちゃうよ。……現にクラスメイトの視線は穂高くんではなく私に向かれていた。
「え、川瀬さんの隣なのズルくない?」「あの子より私達方がいいのに」みたいなコソコソ話も聞こえてくる。
「はい皆さん静かに。穂高くんこれからよろしくお願いしますね」
そう先生が言うと穂高くんは「はい」と礼儀正しく返したのだった。
……まさか同じクラスの、それもとなりの席になるなんて思わなかった。
さすがにクラスは離れると思ったのに。
思わずため息をつきそうになったがグッとこらえる。
そんなことをしたら穂高くんの顔がシュン、とまるで子犬のように縮まってしまいそうだったし。
「それでは1時間目が始まるので別のクラスに行ってきますね」
先生はそう言って荷物をまとめ、隣のクラスへ向かったのだった。
✽ ✽ ✽
1時間目の授業が始まった。
穂高くんが教科書を持っていない、なんてトラブルはあったけど先生の「川瀬さんに見せてもらいなさい」って声で解決した。
今は先生が淡々と教科書の内容を説明しているんだけど、教科書を忘れた本人はぼーっと窓の外を見ている。
物思いにふけっているイケメンって感じ。そんなイケメンにクラスの女子はソワソワ。
授業に集中できない人が多いみたい。
今日初めて穂高くんと会ってたら同じだったかもしれないな。こんなイケメンがクラスにいるとか神すぎるし。
「〜〜だからこうなるんだけど、穂高さん」
「えっ……あっ、はい」
「ここの答えはなんだと思う?」
「……すみません、カラスがかわいかったから外を見てて授業を聞いていませんでした」
……窓を見てたのカラスがかわいかったからなんだね。
なんとも言えない回答に先生もおどろいたような顔で固まっている。
「カラス……?」
「はい、カラスです。かわいいですよね」
「え……うん。先生カラスがかわいくて聞いてない人初めて見たよ」
ちなみにその後、先生にどこか教えてもらった穂高くんは完璧な回答を導き出していた。
さっきまでカラスを観察していた人とは思えないな。
頭の切り替えが早いのかも。いや知らんけど。
「あっ、筆箱に消しゴム3個あった」
「多くないですかそれ」
「俺消しゴム最後まで使い切れたことなくて……
なんでだろう」
「よく無くしてるんじゃないですか?」
そのあとも穂高くんは、突飛な発言をたくさんし……
自由人というか、天然。みんなもそう思ったらしく
クラスメイトからは〝天然〟と認定されている雰囲気が出ていた。
✽ ✽ ✽
「なんで……」
ホームルームが終わり本来は静かな教室……なんだけど、生徒たちでいっぱいだった。
なんでかは分かるよ……。今日移動授業多くてあんまり質問できる時間なかったもんね。
クラスメイトの気持ちにうんうん、と共感をしていたけれど……普通に帰りたい。
行く途中あんなに方向音痴を発揮していた穂高くんを置いて行ける訳もなく、わたしは席にジッと座っていた。
となりで穂高くんは質問攻めにあっていた。
「ねぇねぇ、どこから来たの?」
「北海道……」
穂高くんは質問に単語で答えている。
学校で疲れたんだろうな。
「思うんだけどさ……」
「どうしたの?」
穂高くんの言うことにクラスメイト(特に女子)が注目していた。
「教科書って振ったらキレイになると思わないか?」
「……へ?」
穂高くんの斜め上の言葉に、食い気味に質問に頷いていたクラスメイトたちも、面食らった顔をする。
もちろん私も面食らったが、今まで穂高くんと過ごしてきたぶん少し耐性があった。
だからなのか
「キレイになるかもしれませんけど!?」
と、とっさにツッコんでしまった。
わたしの発言にクラスメイト達がドカッと沸いた。
自分でも漫才みたいなことしたな……って一瞬思った。
だけどこの隙に帰れそう……もしかして今が帰るチャンスなのでは?!
「ではみなさん、さようなら!
穂高くん帰りますよ!」
「えっ……川瀬待って!?」
すこし強引かもだったけど無事帰れるってわけで、わたしは少しホッとした。
クラスメイトたちはポカンとしていたけど、疲れ切っていた当の本人は「川瀬もそんなことするんだな」と感心した様子だった。
「あの……穂高くん」
「……なに?」
「教科書は降ってきれいにするものでは無いですからね」
「………え!?」
