好きになった人は、みんなのアイドルで

悠太郎くんと廊下で会う。
「おはよ、紬ちゃん。学祭のパンまじで美味かった」
「お、おはよ。……ありがと。またね。」

顔も見れずに小走りで通り過ぎてしまった。
こないだみたいにまた気にさせてしまう。
でも、怖い。
悠太郎くんよりも、周りの視線の方が気になってしまう。

その日のバイト。
(悠太郎くんが来たら、どうしよう)

カランカラン。ドアが開く。
悠太郎くんが入ってくる。

「紬ちゃん、おつかれ」
「お、おつかれ」
顔が見れない。どこで誰が見ているか分からない。
「今日もバイト22時まで?」
「うん」
「じゃ、一緒に帰ろ」
「……あ、今日は、帰りに片付け頼まれてて。……遅くなるから先帰ってて」
「……分かった」
我ながらあからさまだったと思う。
でもそれ以上聞かれなくて助かった。

アイスカフェラテを渡す手が震える。
「ありがと」
悠太郎くんは小さく呟いて席へ向かう。

悠太郎くんと話したい。
いちばん話したい人が、いちばん話せない人。

悠太郎くんが帰る時に「またね」と手を振ってくれる。
振り返す手すら曖昧になる。

……一緒に帰りたかった。
今日あった他愛ない話を聞きたかった。聞いてほしかった。

でも怖い。
悠太郎くんを好きでいることすら、怖い。

だから、これでいい。
何度も自分に言い聞かせた。