好きになった人は、みんなのアイドルで

「昨日さ、悠太郎くんと学食で話してる子いて」
「え、誰ー?抜け駆け禁止って皆で言ってるじゃん」
「ね、でも知らない子だった」
「じゃあどこの学部の子だろ」

トイレで話している声が聞こえた。
(……もしかして、私のこと)
一瞬、動けなくなる。息が上手くできない。
足音が去るのを確認してから個室を出る。

大学の廊下で悠太郎くんとすれ違う。
「紬ちゃん、おつかれ!」
「あ……悠太郎くん、おつかれさま」

周りの女の子に見られている気がする。
(あの子誰?)
(どうして悠太郎くんと話してるの?)
実際には誰も何も言っていないのに、
視線だけでそんな風に言われている気がする。

「あ……じゃね、急いでるから」
「うん、またね」

悠太郎くんと、どう接したらいいのか分からない。
どうして、こういう時に限って会うんだろう。

……ほんとは嬉しいのに。話したいのに。

お昼に学食に行って、また悠太郎くんに会う。
「紬ちゃん、今日何食べるの?」
「え、あ、どうしようかな……」
(やめて、話しかけてこないで)
(違う、ほんとは話したい)
周りの目が気になる。怖い。

「あ、ごめん、次の授業早く行かなきゃいけないの忘れてた!またね!」
誤魔化して学食を出る。

「ごめん、今日 農学部の食堂でもいい?」
栞にLINEする。
農学部の食堂は小さくてメニューも少ないから、
カフェテリアが併設されている隣の中央キャンパスの食堂に来ることが多かった。
(……もう、中央の食堂には来れないかも)

これからこんな風に過ごさなきゃいけないのかと思うと、
涙が出そうになって、唇を噛み締めた。