好きになった人は、みんなのアイドルで

バイトの日。
カランカラン。ドアが開く。
ゆうたろうくんが入ってくる。

レジに来て、イヤホンを片耳外す。
ここまではいつもどおりだったのに。
「つむぎちゃん、おつかれ」

名前を呼ばれる。
え、呼ばれるなんて、思ってもみなかった。

「あ、お疲れ様です、ゆうたろうくん……」
ゆうたろうくんの名前を口に出すと、自分の顔が赤くなるのが分かる。

「タメ口でいいって言ったじゃん」
ゆうたろうくんが笑う。
「う、うん……ごめん……」

「じゃあ、アイスカフェラテお願いします」
ここからはいつもどおり。
「か、かしこまりました!」
いつもどおりに戻れない私の返事。

アイスカフェラテを渡す手が少し震える。
「お待たせしました」
「ありがと」目を見て言われる。
「ご、ごゆっくりどうぞ……」

これから、こんな感じなの?
無理無理、普通に接客できないよ。
名前呼ばれるの、やば……

ーー悠太郎サイド

練習終わりカフェに寄る。
外からあの子が見える。
(……つむぎちゃん)

レジで声をかける。
「おつかれ、つむぎちゃん」
口に出してみたらなんか距離感近くて動揺する。
(やべ、なんか俺、チャラい奴だと思われてるかも)

「あ、お疲れ様です、悠太郎くん……」
なんで敬語なの。ていうかちょっと顔赤い。
え、なんで。……え、この子ももしかして番組見てた?
でもな、こないだ声掛けたとき、俺のこと知らなそうだったし。

「タメ口でいいって言ったじゃん」
「う、うん……ごめん……」
別に謝らせたかったわけじゃないんだけど、
これ以上話すことも無くて注文する。
「じゃあ、アイスカフェラテお願いします」
「か、かしこまりました!」
いつもと違ってぎこちない。俺、悪いことしたかな。

「お待たせしました」
「ありがと」カフェラテを受け取る。
「ご、ごゆっくりどうぞ……」

声掛けなきゃ良かったかな。緊張させて悪かったな。
(お疲れ様です、悠太郎くん)
つむぎちゃんの声が耳に残る。
名前、呼ばれたな。ちょっとだけ、変な感じがした。