好きになった人は、未来のアイドルだった

「……かっこいい」

思わず、声になっていた。
入学して初めての学食。
人の多さにもまだ慣れないまま、朝比奈 紬(あさひな つむぎ)は一人の男の人から目が離せなくなっていた。

発光してるみたい、なんて。
さすがに言いすぎかもしれないけど、それくらい目を引いた。
光に透ける金髪、揺れる前髪、綺麗な横顔。目が離せなかった。

「紬、どした?」
隣で相田 栞(あいだ しおり)が首をかしげる。
「あ、ううん。どこ座ろうかなって」
誤魔化したつもりだったけど、たぶん全然誤魔化せてない。
「混んでるねー。あっち空いてるよ」
栞が指した席に向かいながら、私はもう一度だけその人の方を見た。
名前も、学部も、学年も、何も知らないのに。

視線が交わったような気がして、慌てて目を逸らす。
……多分、気のせい。


ーー悠太郎サイド
(うわ、大学の学食ってこんなに混むのか)

トレーを持ったまま、席を探す。
「悠太郎、こっち」
聞き慣れた声に振り向くと、同じ高校から来た友達が手を振っていた。

「さんきゅ」
朝倉 悠太郎(あさくら ゆうたろう)は軽く手を上げて、その席に滑り込む。
「学食って毎日これだとキツくない?」
もう一人がラーメンをすすりながら言う。
「まあでも、ラーメンはうまいな」

そんな他愛ない会話の中で、特に何かが起きるわけでもない。
大学生活の一日目は何も起きずに過ぎていった。