君だけのジミニー・クリケット

 その手は、役割を終えたかのように、ただ力なく膝の上で重ねられている。

 彼女は……彼女は偽りのベールを纏い話す。

「今日は、ありがとう。お母さんに会えて、本当に良かった」

 僕は驚き、顔を覗き込んだ。

 そこには、頬を上気させ、無邪気にはしゃいで見せる彼女の笑顔があった。

 思わず手を重ねる。自らを捧げる思いが、言葉となって飛び出していた。

「幸せになろう」

 嘘をつかなければ生きていけない彼女は、本心を隠し通す、孤独なピノキオだ。

 そして僕は、彼女の良心になど到底なれない、出来損ないのキリギリス。

 夏の終わりに置き去りにされた、駄目な『ジミニー・クリケット』。

 バスはただ、夕闇に染まる一本道を、ガタガタと震えながら走り続けていた。

 終わり。