君だけのジミニー・クリケット

 慰めの言葉さえ見つからない。

 手探りのまま、今この瞬間をやり過ごすことしかできなかった。
 滲み出るようにこぼれた言葉は――。

「帰ろうか」 「……うん」

 日暮れへと向かうバス停までの道。

 あんなに息苦しかった空気は、皮肉なほど穏やかに二人を包み込む。
 蝉の声はもう耳鳴りではなく、悲しい残響となって背中に降り注いでいた。

 僕は彼女の顔を見ることができず、真っ直ぐに伸びる砂利道だけを、どこかで見た映画のワンシーンのように見つめ続けた。

「お母さんね」

 不意に、彼女が沈黙を破った。振り向くことも、歩みを止めることもできない。

「うん」

「お母さん……すごく、喜んでた」

 震えるほどに優しく、そして痛い声だった。

 ナイフで心を切り裂かれるような感覚を堪え、僕は答える。

「そう……良かったね」

 それ以上は、何も言えない。

 彼女が必死に編み上げた、あまりに脆く、あまりに美しいその嘘を、僕はただ全力で抱きしめることしかできなかった。