君だけのジミニー・クリケット

 しばらく。「いや」だいぶ歩いたのだろうか。

 じりじりと焼けるような沈黙の中、一本道の先に、周囲の緑とは明らかに異質な、古びた平屋が見えてくる。

 潮風に晒されて剥げ落ちた壁。生い茂る夏草に半分飲み込まれたようなその家が、彼女が握りしめるメモの終着点であることを、僕は直感的に悟る。

 その平家に近づくと、裏の方では、誰かが井戸のポンプを動かすような、金属質の高い音が響き聞こえると。

 彼女の足がピタリと止まり、その緊張が僕にも伝わってくる。
 示し合わせたわけでもなく、二人で裏手へと回り込み、そっと覗き込んだ。

 そこには、明るい茶色に髪を染めた女性が、泥のついた野菜を洗う姿があった。
 深く被った日除け帽と、土にまみれたスモック。それは、この場所で営まれている、生活感を物語っていた。
 逃げ場のない「夏」の真ん中で、僕たちはついに、その物語の結末の前に立たされていた。

「ココで待ってて」

 血の気の引いた顔でそう言い残すと、彼女は一人、女性の元へと近づいていく。
 その背中が、井戸端の影に吸い込まれていくのを、僕はただ見ていることしかできなかった。

 響き渡るポンプの金属音と、激しく跳ね返る水の音。

 やがて、それらが幕を下ろすようにして、唐突に止んだのだった。