5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。



幸せな時間はあっという間に過ぎ去り、
俺は渋々、自分のクラスへと足を運んだ。

さっきまでの屋上の風が、まだ肌に残っているような気がして落ち着かない。


「おい翔、お前どうした?」


席に着く早々、親友が不審げな顔でのぞき込んできた。


「……なにが?」

「なにが、じゃねーよ。さっきから心ここにあらずって顔してるけど。体調でも悪いのか?」


……そんなに酷い顔をしていたのか、俺。
浮かれすぎている自分を自覚して、慌てて頬を引き締める。

今の俺たちは、まだガラス細工みたいな関係だ。

もし、海緒とのことが周囲にバレて騒ぎになれば、やっと手に入れた「二人の時間」すら壊れてしまう。

…それだけは、何としても避けなければならない。


「別に。……昼飯食って眠いだけだよ」


適当に受け流そうとした時、机の上に置いていたクッキーの袋に、親友の手が伸びた。


「ふーん。あ、そのクッキー美味そうじゃん。一個ちょーだい」

「……ッ、絶対ダメ。触んな」


叩き落とさんばかりの勢いで、俺は反射的にクッキーを死守していた。


「うわ、なんだよ、ケチだな。いつもなら『適当に食え』って言うだろ」

「これはダメ。俺のもんだから」


困惑する親友を無視して、俺は宝物でも扱うようにクッキーをカバンの中に隠した。

誰にも一欠片だってやらない。
これは、あいつが俺にだけくれた、初めての「光」なんだから。


「……なんかいい意味で変わったな、お前」

「んなことねーよ」


親友の探るような視線から逃げるように、
俺は窓の外に目を向けた。


「昨日来た、あの転校生ちゃんのおかげか?」

「……はあ?」


図星すぎる一言に、心臓が大きく跳ねた。
動揺を悟られまいと声を低くしたが、親友のニヤついた顔は消えない。


「珍しいじゃん。お前が女のために自分から動くなんてさ。で、今回も『遊び』なわけ?」


その言葉が耳に入った瞬間、俺の頭から一気に血の気が引いた。

……いや、逆だ。
今まで感じたことのないような、静かで激しい怒りが足元からせり上がってくる。


「……お前、二度とその言葉口にするな」


笑いの一切消えた俺の声に、親友の顔が強張った。
冗談じゃ済まされない、一線を超えた殺気。


「……次はねーからな。あいつをそんな言葉で括るな」


あいつは、今までの「遊び」とは違う。
俺の人生を根底から、転校してきた初日でひっくり返した、たった一人の特別な存在。

それを汚すような真似だけは、親友であっても、たとえ俺自身であっても、絶対に許さない。