5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。




「悪いけど、海緒は連れてくから」



翔はそれ以上、俺に一言の反論も許さないような冷徹な響きでそう告げた。


迷いのない足取りで俺の隣まで歩み寄ると、
ベッドで眠る海緒ちゃんを、壊れ物を扱うように、けれど軽々と横抱きにして抱え上げる。


彼女の体が俺から離れていく。
その喪失感に、俺は思わず声を荒らげた。



「は? なんでだよ。まだ寝てるだろ」

「勘違いすんな」



翔の視線が、俺を真っ向から射抜いた。

その瞳に宿っているのは、激しい怒りよりもさらに冷酷な、あからさまな「軽蔑」だった。



「海緒の部屋に連れてくだけだ。ここに置いたらお前、何するかわかんねーからな」



あいつの言葉が、鋭い刃となって俺の心臓を抉る。
昨日までは、背中を預けて戦える唯一の親友だった。

なのに今、俺はあいつにとって「愛する女を任せられない、卑劣な獣」に成り下がったんだ。


失った信頼の大きさが、静まり返った部屋の中で、嫌というほど重くのしかかってくる。


翔の腕の中で、海緒ちゃんは何も知らずに、
安らかな寝息を立てていた。


俺がどんなに叫んでも、あいつとの関係は元には戻らない。


俺はただ、遠ざかっていく翔の背中と、その腕に守られた彼女を、立ち尽くしたまま見送ることしかできなかった。


【佐原side おわり】