5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。




「……別に。そん時は、止めねぇよ」



返ってきたのは、叫び声でも拳でもなく、
低く、冷徹な拒絶だった。


予想外の反応に、俺は少しだけ拍子抜けしながらも、口角を吊り上げてみせる。



「ふーん。いいんだ、それで。物分かりがいいね」



自分でも、こんな煽り方をされたら腸が煮えくり返るほど苛立つだろう。そう自覚しながら、
俺はわざと翔の神経を逆なでするような態度を崩さなかった。


あいつを壊したかった。
俺と同じように、嫉妬と独占欲で、ボロボロになってほしかった。


けれど、翔は俺を軽蔑しきったような、
冷めた瞳で真っ直ぐに見返してきた。



「結局……好かれたい、欲しいって俺らがどれだけ望んでも、最後に誰かを選ぶのは海緒だから」

「……」

「お前みたいに、自分の欲を優先してまで、海緒を奪い取ろうなんて……俺は思わない」



翔の言葉が、鋭い刃となって俺の胸に突き刺さる。

あいつは「海緒の幸せ」を前提に話している。
対して、俺がしているのはただの「略奪」だ。


翔の正論は、今の俺にとっては何よりも残酷な暴力だった。


目の前の親友が、どれほどの絶望を抱えてその場に立っているのか。それを見抜けないほど、俺は馬鹿じゃない。


それでも、翔は一人の男として、逃げ場のない「現実」を俺に突きつけたんだ。