5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。



『私に付きまとうなんて、時間の無駄ですよ』

「俺は好きなやつにしか時間使わないの。無駄じゃない」


言い切った瞬間、彼女の瞳に微かな光が灯る。

そして、今までに見たこともないほど綺麗で、残酷なまでに澄んだ涙が、彼女の頬を伝い落ちた。


『……言いたい、けど……やっとお話しできた、男の人だからっ……。嫌われたくないの……っ』


なんてことを言わせているんだろう、俺は。
好きな人を泣かせて、過去の傷を無理やり暴いて。

泣かせてまで吐き出させるより、やるべきことがあっただろ。
まずは俺という人間を、もっと信じてもらうのが先だったはずだ。


「……ごめん。嫌うわけない。嫌われるのが怖いのは、俺の方」


溢れる涙を拭ってやることもできないもどかしさを抱えて、俺はただ、彼女が流す涙の理由を噛みしめていた。


『えっ……』

「じゃあ、嫌われる覚悟で話すわ。俺のこと」


今まで、本気で誰かを好きになったことがないこと。
付き合っても、結局は空っぽのままだったこと。
本当は、女という生き物が心の底から嫌いなこと。

……あえて、目の前の「彼女」だけは特別だ、なんて告白は飲み込んだ。


『ふふっ……』

「いや、笑うとこ一個もねーだろ。俺、結構最低なこと言ったぞ」

『ううん。女の人が嫌いなのに、私とはこうしてお話できてるの、面白いなあって思って』

そう言って、彼女は今日一番の、柔らかい笑顔を見せた。

頼むから、そんな近距離で笑わないでほしい。
そんなふうに、無防備に心を許した顔をしないでほしい。

これ以上やられたら、また。
また俺が、自分の立場も忘れて調子に乗っちゃうから。


「……お前、ほんと……。そういうとこ、ずるいわ」


顔を背けて、熱くなった頬を隠すのが精一杯だった。


『……あの、ひとつ、わがままを言ってもいいですか?』


少しだけ俯いて、上目遣いに俺を伺う彼女。
その破壊力に、心拍数がまた跳ね上がるのを自覚しながら、俺はあえて平然を装って答えた。


「……まあ、応えられる範囲なら」

『明日も……ううん、これから学校がある日は、お昼休憩のとき、先輩とここでお話したい……です』


一瞬、思考が止まった。
明日だけじゃない。「これからずっと」なんて。

それは、彼女がこれからも俺に時間を割いてくれるという、実質的な「特別宣言」に等しかった。


「……いいよ。屋上、俺がキープしとくから」


精一杯格好をつけて返したけれど、口角が緩みそうになるのを抑えるのに必死だった。

今まで、何百人という女から「明日会いたい」なんて言われてきた。

けれど、こんなに胸が熱くなって、明日が来るのが待ち遠しいと思ったのは、生まれて初めてだ。