『私に付きまとうなんて、時間の無駄ですよ』
「俺は好きなやつにしか時間使わないの。無駄じゃない」
言い切った瞬間、彼女の瞳に微かな光が灯る。
そして、今までに見たこともないほど綺麗で、残酷なまでに澄んだ涙が、彼女の頬を伝い落ちた。
『……言いたい、けど……やっとお話しできた、男の人だからっ……。嫌われたくないの……っ』
なんてことを言わせているんだろう、俺は。
好きな人を泣かせて、過去の傷を無理やり暴いて。
泣かせてまで吐き出させるより、やるべきことがあっただろ。
まずは俺という人間を、もっと信じてもらうのが先だったはずだ。
「……ごめん。嫌うわけない。嫌われるのが怖いのは、俺の方」
溢れる涙を拭ってやることもできないもどかしさを抱えて、俺はただ、彼女が流す涙の理由を噛みしめていた。
『えっ……』
「じゃあ、嫌われる覚悟で話すわ。俺のこと」
今まで、本気で誰かを好きになったことがないこと。
付き合っても、結局は空っぽのままだったこと。
本当は、女という生き物が心の底から嫌いなこと。
……あえて、目の前の「彼女」だけは特別だ、なんて告白は飲み込んだ。
『ふふっ……』
「いや、笑うとこ一個もねーだろ。俺、結構最低なこと言ったぞ」
『ううん。女の人が嫌いなのに、私とはこうしてお話できてるの、面白いなあって思って』
そう言って、彼女は今日一番の、柔らかい笑顔を見せた。
頼むから、そんな近距離で笑わないでほしい。
そんなふうに、無防備に心を許した顔をしないでほしい。
これ以上やられたら、また。
また俺が、自分の立場も忘れて調子に乗っちゃうから。
「……お前、ほんと……。そういうとこ、ずるいわ」
顔を背けて、熱くなった頬を隠すのが精一杯だった。
『……あの、ひとつ、わがままを言ってもいいですか?』
少しだけ俯いて、上目遣いに俺を伺う彼女。
その破壊力に、心拍数がまた跳ね上がるのを自覚しながら、俺はあえて平然を装って答えた。
「……まあ、応えられる範囲なら」
『明日も……ううん、これから学校がある日は、お昼休憩のとき、先輩とここでお話したい……です』
一瞬、思考が止まった。
明日だけじゃない。「これからずっと」なんて。
それは、彼女がこれからも俺に時間を割いてくれるという、実質的な「特別宣言」に等しかった。
「……いいよ。屋上、俺がキープしとくから」
精一杯格好をつけて返したけれど、口角が緩みそうになるのを抑えるのに必死だった。
今まで、何百人という女から「明日会いたい」なんて言われてきた。
けれど、こんなに胸が熱くなって、明日が来るのが待ち遠しいと思ったのは、生まれて初めてだ。
