5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。




重なり合う熱の中で、私の頭を支えていた大きな手がゆっくりと離れた。その指先は、まるで壊れやすい硝子細工に触れるような慎重さで、私の胸元へと伸びる。


怖いわけじゃない。そう自分に言い聞かせても、
私の体はあの日の記憶を、嫌というほど鮮明に覚えていた。


指先が触れるか触れないかの、
ほんのわずかな圧迫感。それに反応して、
私の体は無意識に、ビクッと大きく震えてしまった。



「……行き過ぎたことをしたね。ごめん」



先輩の声は、驚くほど冷静で、ひどく悲しそうだった。


私を求めていたはずの手は、突き放すのではなく、いたわるように優しく私の体を解放していく。


彼という支えがなくなった瞬間、急に視界が歪んだ。


極度の緊張と、脳を焼くような熱。
重なり合っていた体温が遠のくと同時に、意識がふっと遠のいていく。


重力に従うように、私はもう一度、佐原先輩の胸の上へと力なく倒れ込んだ。

逃げたかったはずなのに、今はその体温が、私を繋ぎ止めてくれる唯一の錨(いかり)のようだった。



【海緒side おわり】