5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。




触れていた唇が離れた瞬間、
佐原先輩が一瞬だけ視線を泳がせた気がした。


けれど、生まれて初めて経験した「キス」という衝撃に、心臓を直接掴まれているような私は、それを気にする余裕なんてどこにもなかった。


…頭が、熱い。酸素が足りない。


混乱する私に追い打ちをかけるように、
先輩の掠れた声が耳元に降ってくる。



「ごめん……大好きだよ、海緒ちゃん」



逃げ場を塞ぐような愛の告白。


直後、何事もなかったかのように入り込んできたのは、驚くほど熱を持った……彼の舌だった。



『……ふっ……ぁっ……』



普通のキスよりもずっと深く、
内側にまで侵食してくるような、濃密な熱。

絡まる舌の感覚に、脳が痺れていく。


……おかしい。


男の人が、あんなに怖かったはずなのに。
こんなに深く、強引に触れられているのに、私は「怖い」と思えない。


それどころか、先輩の熱に絆され、
このまま溶けてしまいたいと思っている自分がいる。


心の真ん中には翔先輩がいるはずなのに。


初めてを捧げた相手を拒めない自分への違和感と、底なしの自己嫌悪が、甘い熱に混ざって胸の奥で広がっていった。


この熱い繋がりのすぐ後ろで、誰かが絶望の淵に立っていることにも気づかずに。