5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。



【海緒side】



昨日の夜、急に抱きしめられて……


あの時感じた冷たい指先の感触や、佐原先輩の震える声が、今も耳の奥に残っている。


正直、気まずくないと言えば嘘になってしまう。
二人きりで会うのは、少しだけ勇気がいるけれど。


でも、あんなに苦しそうな顔をしていた先輩を放っておくことなんて、私にはできなかった。


もしかしたら、本当にどこか具合が悪くて寝込んでいるのかもしれない。
そう思うと、じっとしていられなくて、
気づけば私はおにぎりをお皿に取って、宿の廊下を走っていた。


佐原先輩の部屋の前で、一度深く息を吸い込む。
……大丈夫。先輩は、悪い人じゃないから。


コン、コン。


控えめにドアを叩くと、数秒の静寂の後、
中から「……はい」と力のない声が返ってきた。


いつもの明るくて、冗談ばかり言っている佐原先輩とは、まるで別人のような掠れた声。



『佐原先輩、海緒です。……朝ごはん、持ってきました。入っても、大丈夫ですか?』



返事を待つ間、お皿を持つ手が少しだけ震える。
扉の向こうで、先輩がどんな顔をしているのか。
私は、昨日の続きをどう受け止めるべきなのか。


朝の光が差し込む廊下で、私は自分の鼓動が早くなるのを感じていた。