賑やかな朝の空気に、ふっと落ちた空白。
海緒が周囲を見渡しながら、困ったように眉を下げて俺のところに駆け寄ってきた。
『あの……佐原先輩が、見当たらないのですが……』
彼女に言われて、俺はハッとして周囲を見渡した。
言われてみれば、朝の集合からあいつの姿を見ていない。練習に集中しすぎて、一番いてほしいはずの親友の不在に気づかなかった。
『……具合でも、悪いんでしょうか。たぶん、まだお部屋にいらっしゃいますよね』
不安げな海緒の言葉に、俺は昨夜のあいつの、あの魂が抜けたような顔を思い出した。
体調不良じゃない。
あいつは、海緒に合わせる顔がないんだ。
「……ここにいないなら、たぶん部屋だな。他に行くとこも無いだろうし」
『ちょっと様子見てきますね。これ、食べてないだろうから』
海緒は、おにぎり二つと卵焼きを小皿に分けると、それを大切に抱えて宿の方へ走り出した。
「……あ、おい!」
呼び止めようとして、声が喉の奥で止まる。
追うべきか、追わないべきか。
あいつの部屋で二人きり……。
昨夜の光景が脳裏をよぎり、胸の奥がざわつく。
でも、グラウンドを見渡せば、次のメニューを待っている部員たちが俺を見ている。
俺がいなくなれば、またこのチームは立ち止まってしまう。
「……っ、クソ」
俺は、小さくなっていく海緒の背中を見つめながら、拳をぎゅっと握りしめた。
昨夜「誰かを好きになってもいい」なんて思った自分を、今すぐ殴ってやりたいほどの猛烈なモヤモヤ。
けれど今は、あいつを救えるのは俺じゃなくて海緒なのかもしれない……そう自分に言い聞かせて、佐原を彼女に託すことにした。
