『……全く怖くない、って言ったら、嘘になります』
あー。終わった。
……そうだよな。覚悟はしてたし、分かってたつもりだったけど、いざ本人に直接突きつけられると……
流石にくるものがある。
「……そっか。じゃあ、もうあんまり、近づかないようにするわ。ごめん」
身を引こうとした、その時だった。
『で、でもっ……! 先輩なら、ちょっとずつ、お話しできるようになりたいなって……思ってます……っ』
「……へ?」
屋上の空に、自分でも驚くほど間抜けな声が響いた。
絶望のどん底から一気に引き上げられた衝撃に、思考が追いつかない。
『他の人は、その……勝手に手を握ってきたり、距離が近かったりするんですけど。先輩は、そういうの、ないから……』
「…………っ」
やばい。今、俺、絶対に顔真っ赤だ。
俺が必死に理性を総動員して守ってきた「触れない」というルールが、まさかこんなふうに報われるなんて。
下心でガチガチだったはずの俺の胸に、彼女の純粋な信頼が、痛いくらいに刺さった。
だけど、それと同時に……。
ほんの少し信頼を勝ち取れたからって、俺は無意識に調子に乗ってしまった。
「何があったの。そんなに怯えるまで……一人で我慢してきたのにも、理由があるんだろ」
一瞬で、屋上の空気が凍りついた。
『……先輩には、私の気持ちなんて分かりません』
案の定、突き放された。
彼女の瞳からスッと光が消え、そこには分厚い透明な壁が再構築される。
なにやってんだ、俺……。
悔やんでも、放った言葉はもう取り消せない。
自分への猛烈な後悔より先に、制御不能になった口が勝手に言葉を紡いでいた。
「じゃあ、教えてよ。……分かるまで、いつまでも待ってるから」
拒絶されても、嫌われても、君の隣を譲るつもりはない。
引き返せないところまで踏み込んでしまった自覚とともに、俺は逃げ道を塞ぐようにそう告げた。
