5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。




『ありがとうございます。そうしたら、洗うのはもう少しで終わるので……そこに重なった洗い終わっているもの、拭いてもらえますか?』

「お易い御用だよ」



海緒ちゃんが差し出した清潔な布巾を受け取り、俺は皿を手に取る。


男ばかりの合宿で、彼女が萎縮したり疲れたりしていないか心配していたけれど、どうやらそれは俺の考えすぎだったみたいだ。

今の彼女は、驚くほど自然にこの場所に馴染んでいる。



……それが、なんだか少しだけ悔しい。



カチャカチャと皿が触れ合う音と、水道から流れる水の音。

沈黙に耐えかねたわけじゃない。
でも、言わずにはいられなかった。



「……あのさ。買い出しに行った時にくれた、サイダーなんだけどね」



俺の唐突な言葉に、彼女の手が止まる。



『……はい?』



泡のついた手で不思議そうに俺を見る彼女。

その曇りのない瞳を直視できなくて、
俺は手に持った皿を無意味に何度も拭いた。



「あれね……まだ半分以上、残ってるんだ」

『えっ……ぬるくなっちゃいますよ? お口に合いませんでしたか?』

「違うよ。逆」



俺は、キッチンの隅に置いてある、
水滴が乾ききったあのボトルに目をやった。

キンキンに冷えていたはずのそれは、
もうとっくに常温に戻っている。



「……なんかさ、勿体なくて。海緒ちゃんが初めてくれた『特別』だと思ったら、一気に飲み干すなんてできなかったんだよね」



……ああ、本当に。


今まで何百人という女の子に調子のいいことを言ってきたはずなのに、どうしてこんな、子供みたいなことしか言えないんだろう。



ぬるくなったサイダーを大事に持っているなんて、
かっこ悪すぎて笑えてくる。


でも、これが今の俺の精一杯なんだ。

スマートに飲み干して「ありがと」で終わらせられた今までの俺は、もうどこにもいない。