【佐原side】
部員たちの「ごちそうさま!」という野太い声が響く中、ふと視線を動かす。
そこには、皆が食べ終わる頃になってもまだ厨房に立ち、山のような洗い物と向き合っている海緒ちゃんの姿があった。
今日、帰り道の途中で「特別」と言ってくれたサイダーを、俺はまだ飲み干せずに持っている。
(……もし、あの子が俺の彼女だったら)
そんな、今の立ち位置では絶対にありえない想像が、脳裏をかすめる。
いつか、あの子が誰かのお弁当を作ったりする日が来るんだろうか。
早起きして、一生懸命おかずを詰めて、渡す時に少し照れたりして。
もし、その相手が俺だったら。
そんな、叶いそうもない夢を想像しては、
胸の奥がチクりと痛む。
彼女はまだ、男の人が怖くて、
翔にだけようやく心を開き始めたばかりだ。
その「翔への信頼」ですら、今はまだ恋というより、命綱のようなものなのかもしれない。
付き合っているわけでもないのに、二人の間にあるその「特別な空気」に、俺はいつも踏み込めないでいる。
……よせ。
勝手に期待して、勝手に落ち込んで。
自分を追い詰めてどうすんだよ。
「……っし、海緒ちゃん! 洗い物、俺も手伝うよ!」
座ってじっとしていると、自分の変な独占欲に押し潰されそうになる。
俺はわざと明るい声を出し、ベンチを蹴るようにして立ち上がった。
俺の役目は、まだ彼女が「男の人」を怖がらなくなるための練習相手。
今はそれだけで十分だって、自分に言い聞かせながら。
