5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。




宿の厨房、包丁の規則正しく軽快な音が響く。

海緒が手際よく野菜を刻んでいく姿は、さっきまでの怯えていた女の子とは思えないほど堂々とした「マネージャー」の顔だった。



「海緒ちゃん、手際いいね? びっくりした」



佐原が感心したように声をかけると、彼女は手を止めずに、ふわりと微笑んだ。



『このくらいの量だったら私一人でも大丈夫なので。翔先輩も佐原先輩も、部活に戻って大丈夫ですよ』

「……は? さすがにこの人数分を一人でやるのは、やばいだろ。俺らも手伝うって」



俺がそう言って一歩踏み出すと、海緒は包丁を置き、キッチンの小さな窓を指さした。



『慣れてるので、本当に大丈夫です。それに……翔先輩、外、見てみてください』



促されて窓の外に目を向けると、そこには、練習メニューも決まらず、何をしたらいいのか分からず立ち尽くしている部員たちの姿があった。


中には、俺たちの不在を不安そうにキョロキョロと探している後輩もいる。



『お二人がいないと、おそらくこのチームはまとまりません。……練習、大事な時間ですよね? スポーツドリンクはもう作ってあるので、それを持って、皆さんのところに戻ってあげてください』



静かだけど、拒絶ではない、強い意志を秘めた言葉。

彼女は自分の「リハビリ」だけでなく、俺たちの「役目」までちゃんと見ていたんだ。


俺は、隣で同じように外を見ていた佐原と顔を見合わせた。


海緒は、ただ守られるだけの存在じゃない。

俺たちが一番いいパフォーマンスができるように背中を押してくれる、頼もしい仲間なんだと突きつけられた気がした。



「……わかった。無理だけはすんなよ。何かあったらすぐ呼べ」

「了解、海緒監督。じゃあ、サクッと練習回してくるわ!」



俺は海緒が用意してくれたスポーツドリンクのボトルを掴む。

振り返った彼女は、逆光の中で少しだけ「誇らしげ」に笑っていた。
その笑顔を守るために、俺ができることは、今はこのコートで全力を尽くすことだけだ。