密室だと、きっと彼女を怖がらせてしまう。
そう考えて、俺はできるだけ風が通り抜ける、
見晴らしのいい屋上へ彼女を連れ出した。
フェンス越しに流れる5月の風が、
彼女の髪を優しく揺らす。
『あの……』
「ん?」
『この前、お水……あと、今日も。助けてくれて、ありがとうございました』
そっと俺の片手をとって、その場に置かれたのは、
小さな袋に入ったクッキーの詰め合わせだった。
たったこれだけの、単純すぎるプレゼント。
なのに俺の心臓は、これ以上ないくらいに激しく踊っている。
「……くれるの?」
『お礼、です。あっ、でも……手作り嫌いだったら、捨てちゃっていいので……』
自信なさそうに視線を泳がせる彼女。
そこに下心なんて一ミリもなくて、
ただ純粋に「感謝」だけが詰まっていた。
そんなふうに真っ直ぐな想いを向けられたの、いつぶりだろう。
……いや、きっと初めてだ。
今まで生きてきた中で、俺という人間そのものを見て、何かをしてくれたのは。
「捨てないよ。……ありがと、大事に食べる」
そう言って笑うと、彼女の顔にほんの少しだけ、春の陽だまりのような安堵が浮かんだ気がした。
あ。
この顔、初めて見た。
誰かを誘惑するための笑みでも、
適当に聞き流すための愛想笑いでもない。
偽りのない、心からの優しい顔。
「学校……馴染めそう?」
俺がそう尋ねると、彼女は少しだけ視線を落として、小さく首を横に振った。
『……分からないです。私は、普通の人みたいに関われる人が多くないので、余計に……』
男が苦手なのは、聞かなくても分かる。
この学校の半分は男子生徒だ。あいつにとって、この場所は息をするのも苦しい檻みたいなものかもしれない。
……あれ。そしたら、なんで。
「……俺と関わってて、怖くないの?」
思わず、心の声が口から漏れていた。
『え?』
「いや……男、苦手そうだったから。俺と一緒にいて、大丈夫なのかなって」
彼女の瞳を真っ直ぐに見つめるのが、こんなに怖いと思ったのは生まれて初めてだった。
もしここで「先輩も怖いです」と言われたら、
俺はどうすればいいんだろう。
そんな弱気な考えを振り払うように、俺は返事を待った。
