5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。




『たぶん、佐原先輩が欲しいお返事は、できない……と思います』

「……うん」

『でも、できるだけ……その気持ちを、知りたいとは思ってます』



真っ直ぐな彼女の言葉が、夏の熱気と一緒に俺の胸に流れ込んでくる。

今まで、女の子に困ったことなんてなかった。
適当に距離を測って、傷つかない程度に楽しんで。
恋なんて、そんな効率のいい遊びだと思ってた。


なのに、今はどうだ。


「返事はできない」とはっきり言われたのに、その後に続く彼女の不器用な誠実さに、心臓が今まで経験したことがないくらい、うるさく暴れている。


(……なんだよ、これ。全然、かっこよく振る舞えないじゃん)


本気で誰かを好きになるのが、こんなに苦しくて、余裕がなくなるものだなんて知らなかった。

今までの「恋のテクニック」なんて、この瞬間、全部ゴミ箱に放り込まれた気分だ。


拒絶されたのに、それでも彼女の「知りたい」という言葉に縋り付いて、舞い上がってしまう自分。

そんな無様な自分に、一番驚いているのは俺自身だった。



「……そっか。ありがとね、海緒ちゃん」



指に食い込むビニール袋の重み。
それを「痛み」じゃなく、彼女と繋がっている「確かな重さ」だと感じてしまう。



「……ゆっくりでいいよ。俺も、海緒ちゃんが俺を知りたいって思えるような、もっといい男になれるように頑張るから」



生まれて初めて知った、この胸を焼くような感情。

それは、翔への対抗心なんかじゃなく、ただ目の前の彼女に「一人の男」として見てほしいという、情けないくらいに純粋な願いだった。