5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。



頭上からは、容赦のない太陽がジリジリと俺たちの体力を奪い去っていく。


どこか遠くで、俺の焦燥感を急かしているような蝉の声が、耳の奥に突き刺さるように鳴り響いていた。


両手に食い込むビニール袋の重み。
暑さと重さで、思考が麻痺しそうになる。


けれど、その限界に近い感覚が、俺の理性のブレーキを壊してしまったのかもしれない。
俺は、自分でも驚くほど静かな声で、彼女の名前を呼んでいた。



「……ねえ、海緒ちゃん」

『はい? なんでしょう?』



不思議そうに、けれど安心しきった瞳で俺を見上げる海緒ちゃん。

その無垢な信頼が、今の俺にはたまらなく苦しい。



「前にさ……俺も海緒ちゃんを狙う、みたいな話したの、覚えてる?」



唐突に投げかけた言葉に、彼女の動きがピタリと止まった。



『……あ……』



一瞬にして彼女の顔から表情が消え、戸惑いと、思い出したくない過去への予感が混ざり合ったような色が瞳に浮かぶ。

本当は、もっといいシチュエーションがあったはずだ。


こんな、スーパーの帰り道で、大量の食材を抱えて、汗だくになりながら言うことじゃない。


でも、もう止まれない。


「リハビリ相手」の仮面を被ったまま、
翔の隣で笑う彼女を見守り続けるのは、この夏の暑さよりも、ずっと俺を焼き尽くしていたんだ。