5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。



「……ほんと、ズルいね、海緒ちゃんは」



隣を歩く彼女を見つめながら、そんな言葉が思わず口をついて出た。



『へっ……何が、ですか?』



不思議そうに、小首を傾げて俺を覗き込んでくる。
その、澄んだ瞳。俺のことを「リハビリ相手」だと言い切る潔さと、それなのに、こんなに近くで無防備に笑いかけてくる残酷さ。



「ううん、なんでもなーい! さ、買うもの選ぼっか!」



今の言葉の意味なんて、君には一生伝わらないままでいい。

平然を装って、俺はガラガラとカートを押し、野菜売り場の奥へと思考を逃がした。



『今までの合宿は、いつもどんなものを食べてたんですか?』



商品を吟味しながら、海緒ちゃんがふと尋ねてくる。



「うーん、やっぱ男ばっかりだからね。ガッツリ肉多め! 茶色いおかず! って感じのことが多かったかなあ」

『なるほど。……ふふ、そしたら、少しお野菜も多めに入れないとですね。バランスを考えないと、皆さんの体力が持ちませんから』



そう言って彼女は、人参やタマネギを次々と手に取り始めた。

「お肉がいいなー」なんて俺が冗談で言っても、「ダメですよ」と真面目な顔で笑いながら、カゴを埋めていく。

いつの間にか、カゴ二つ分にこんもりと積み上がった食材。


一生懸命に部員たちの健康を考えるその背中は、
さっきロビーで震えていた女の子とは別人のように、頼もしいマネージャーの顔をしていた。

俺に向けられるのは「恋」じゃないかもしれない。

けれど、こうして二人でスーパーの喧騒の中にいると、まるで本当のデートをしているような、馬鹿げた錯覚に陥ってしまうんだ。