5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。



【佐原side】


「じゃあ、買い出し行ってくるね」



翔にそう声をかけると、あいつは苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、俺を真っ直ぐに見据えてきた。



「……海緒のこと、ちゃんと守れよ」

「うん、分かってるって」



その一言に込められた重さを、俺が知らないはずがない。
歩き出した俺の隣で、少しだけ緊張が解けた海緒ちゃんの横顔を見て、俺は心の底から安堵していた。


あの日、震える彼女を前に、翔と二人で誓ったんだ。
俺たちが彼女の盾になると。

正直、翔にべったりすぎる彼女を見て、
「翔以外の男を受け入れられる日なんて来るのかな」なんて、勝手に心配していたけれど。



「……別に、翔も一緒に来ることもできたけど、よかったの?」



歩調を合わせながら、何気なさを装って聞いてみる。
すると彼女は、少しだけ俯いて、自分に言い聞かせるような小さな声で答えた。



『はい。……私にとって、佐原先輩と二人で行動することも、大事なリハビリなので』



――リハビリ。

その言葉が、胸の奥を鋭いナイフでなぞるように突き刺さる。

分かってる。分かってるよ、海緒ちゃん。
俺は、君がいつか「男の人」を怖がらなくなるための、通過点。


翔という本命に辿り着くための、ただの練習台に過ぎないんだってことくらい。



「……そっか。そりゃ、光栄だね。じゃあ最高の練習台になってあげるよ」



軽口で返した自分の声が、どこか空っぽに響いた気がした。
自分は「リハビリ相手」でしかないと、脳が冷徹に理解しているのに。

隣で小さく微笑む彼女の姿に、
心臓がバカみたいに跳ね上がってしまう。

こんなにも見込みがないと分かっていて、それでも舞い上がってしまう俺は、きっと救いようのない病気にでもかかっているんだろう。