-翌日-
「転校したばっかで永瀬先輩と話せるとか、マジでやばくない!?」
「てかさ、あんまり調子乗って近づかないでくれる?」
……やってしまった。
俺が我慢できずに動いたせいで、結局、
彼女に余計な矛先が向いている。
校舎の陰から聞こえてくる、刺々しい女たちの声。
『……別に、私は男性の方と親密になろうなんて、思っていないので』
「はあ? なにそれ生意気。自分は特別ですよってアピール? ほんとムカつく」
『いや、ちがっ……』
これだから、女って生き物は嫌いなんだ。
俺が勝手に近づいただけなのに、
あいつらは標的を見つけて、寄ってたかって叩こうとする。
どうして誰かを下げて、踏みつけにしないと、
自分たちの価値を証明できないんだろうか。
どうして目の前の彼女、漆山みたいに、
ただ静かに生きているような女が、この世界にはこんなにも少ないんだろうか。
「おい、何してんの」
自分の声が、自分でも驚くほど冷たく響く。
あいつらに向ける視線には、もう一ミリの愛想も残っていなかった。
「あ……」
俺の姿を認めた途端、さっきまで威勢の良かった女たちの顔が引きつった。
「俺が勝手に近づいただけなのに、漆山をいじめんなよ」
「別に、いじめてなんか……」
「いじめてんだよ。自分が何してるかも分かんないタイプ?」
氷点下の視線を投げつければ、悔しそうに顔を歪めた女たちは、蜘蛛の子を散らすみたいにどこかへ消えていった。
あんな奴ら、どうだっていい。
今の俺の視界には、俯いたまま、痛いくらいに手を握りしめている彼女しか映っていなかった。
「せっかく綺麗な手、あと残っちゃうよ。……ほら、力抜いて」
そっと声をかけると、彼女はハッとしたように俺を見た。
『……クセ、なんです。無意識にやっちゃって』
自嘲気味に笑う彼女の指先は、まだ微かに震えている。
そんなふうに自分を傷つける癖がつくまで、一体どれだけの地獄を一人で耐えてきたんだろうか。
「そっか。……ちょっと、息抜きしにいこう」
『え?』
「ここだとうるさいやつがいっぱいいるし、視線も集まるし。……疲れるでしょ」
適当な理由を並べて、驚く彼女の手を引く代わりに、その背中を促すように歩き出す。
これで、2度目の連れ出し。
俺の「恋の病」は、どうやら思っていたよりも重症らしい。
