5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。




『……けて、くれますよね』



俯いたままの海緒から、消え入りそうな声が漏れた。
ざわつく部室の喧騒に紛れてしまいそうなほど、微かで、けれど必死な声。



「……ん?なんて?」



聞き返すと、彼女は勇気を振り絞るようにして、
ゆっくりと顔を上げた。


その瞳は、今にも涙が零れ落ちそうなくらいに揺れている。



『もし……何かあったら。私がまた、動けなくなってしまったら……助けて、くれますよね』



その瞬間、心臓が奥深くから突き上げられるような感覚に襲われた。


「助けて」――。


トラウマを抱えた彼女にとって、
その言葉を口にするのがどれほどの恐怖だったか。


俺は、震える彼女の肩を今すぐ抱き寄せたい衝動を必死に抑え、視線の高さを合わせて真っ直ぐに彼女を見据えた。



「……おう。当たり前だろ」



一言一言、彼女の不安を塗り潰すように、
力強く言い切る。



「お前を一人にはしない。何があっても、俺が一番にお前の元へ行く。……約束だ」



俺の誓いが届いたのか、海緒の強張っていた肩が、
ほんの少しだけ緩んだ気がした。



「それに! もしもの時は俺もいるから。ねー、海緒ちゃん!」



空気を変えるように、佐原がひょいと俺の肩越しに顔を出し、指で軽快にピースを作ってみせる。



「翔は硬すぎるからさ。俺くらい気楽な奴も近くにいた方が、安心でしょ?」



いつもの調子で笑う佐原。
あいつへの複雑な思いはあるけれど、その明るさに海緒が救われたのは事実だった。



『……っ、はい。ありがとうございます、お二人とも』



ようやく海緒の口元に、小さな、けれど確かな安心の笑みが浮かんだ。


その笑顔を見て、俺は改めて腹を括った。


この合宿、何があっても――
俺が命懸けで、彼女の平穏を守り抜いてみせる。