『えっ……と、合宿……ですか?』
終業式を二日後に控えた放課後。
部室に貼り出された日程表を見て、海緒が小さく、けれど怯えを含んだ声を漏らした。
毎年、この時期に俺たちテニス部を待ち受けている恒例行事。
炎天下の山中で三泊四日、ひたすらラケットを振り続ける地獄の強化合宿だ。
『それって……泊まり、ですよね。……三泊も』
海緒の戸惑い、そして微かな震えを、俺は見逃さなかった。
最近は俺や佐原に対して、
少しずつ「素」を見せてくれるようになった。
けれど、それはあくまで「俺たち」が相手だからだ。
環境が変わり、逃げ場のない山奥で、
自分以外の部員全員が「男」という状況。
彼女が抱えるトラウマの深さを考えれば、それがどれほど高い壁であるかは、火を見るより明らかだった。
……やっぱり、無理だよな。
俺が「マネージャーなんだから来い」
なんて言えるはずがない。
むしろ、あんな無防備な海緒を、
血気盛んな野郎どもがひしめく合宿所に連れていくこと自体、俺の独占欲が「NO」と叫んでいる。
「……海緒。無理に参加しなくていいんだぞ。マネージャーの仕事は、俺たちがなんとかするから」
俺がそう声をかけると、海緒はぎゅっと自分の拳を握りしめた。
不安に揺れるその瞳の奥で、彼女は今、自分の中にある「怖さ」と必死に戦っているように見えた。
