結局、それ以上の会話は一言も交わされることなく、無情にも昼休憩の終わりを告げる予鈴が鳴り響いた。
あんな宣言をした本人は、何事もなかったかのように欠伸をして屋上を去り、俺と海緒の間には、何とも形容しがたい、粘り気のある気まずさだけが取り残された。
「……行こうか」
精一杯の声を捻り出すのがやっとだった。
海緒はただ、小さく「はい……」と頷き、俺の三歩後ろを影のように付いてくる。
さっきまでの、あの心を通わせたような温かな時間は、どこへ消えてしまったんだろうか。
教室に戻っても、佐原と目が合うことは一度もなかった。
いつもなら、授業の合間にくだらない冗談を飛ばし合っているはずの時間が、針の筵(むしろ)のように苦しく感じられる。
あいつが何を考えているのか、本当に海緒を奪おうとしているのか……。
考えれば考えるほど、思考の泥沼にはまり込んでいった。
そしてその不協和音は、放課後、テニス部のコートに立っても鳴り止むことはなかった。
「……っ、クソッ!」
いつもなら呼吸をするように打てるはずのボレーが、ネットの白帯を無情に叩く。
ラケットを握る手に、余計な力が入っているのが自分でもわかった。
ボールに集中しようとすればするほど、脳裏には屋上での佐原の冷めた瞳と、震えていた海緒の肩がフラッシュバックする。
コートの端、マネージャーの仕事をしている海緒の視線を、今の俺はまともに直視することができなかった。
守る、譲らない……。
威勢のいいことを言ったものの、自分のプレー一つ制御できない情けなさに、心の内側がじりじりと焦げ付くような苛立ちに支配されていた。
