『んーっ! 風、きもちいいですねっ』
屋上の柵に手をかけ、海緒が大きく伸びをした。
最近、彼女は驚くほどよく笑うようになった気がする。
いや……明るくなったというより、俺たちの前で「素」を見せてくれるようになった、というのが正しいのかもしれない。
そんな彼女の変化が、俺にはたまらなく嬉しかった。
「海緒ちゃん、今日は何作ってきたの?」
レジャーシートに座るなり、佐原が興味津々で彼女の手元を覗き込む。
『今日はサンドイッチです。お二人とも、いつもお昼はパンを食べているので、私も合わせようかなって』
『手作りだから、ちょっと形がいびつなんですけど……』
そう言って、照れくさそうに苦笑いする海緒。
その表情、揺れる髪、そして俺たちの好みに合わせようとしてくれたその優しい心遣い。
そのすべてが愛おしくて、俺はもう、自分の心臓がうるさいくらいに脈打つのを感じていた。
……好きだ。
不格好なサンドイッチさえ、世界中のどんな豪華な料理よりも輝いて見える。
形なんてどうでもいい。お前が俺たちのために作ってくれた、その事実だけで、俺はもう十分すぎるほど幸せなんだ。
「……ありがと、いただきます」
俺は、込み上げる熱い感情を飲み込むようにして、彼女の差し出したバスケットに手を伸ばした。
「海緒ちゃん海緒ちゃん、あのね」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた佐原が、俺の動揺を煽るように、海緒の耳元へ顔を寄せた。
『どうかしましたか……?』
「翔がさ、こーやって女子の手作りを口にするの、マジで有り得ないことだからね? 普段は貰っても捨てるか、俺に丸投げしてくるんだから」
「……っ! 余計な情報を流すんじゃねえよ!」
反射的に身を乗り出し、あいつの口を封じようとする。
けれど、あいつはひらりと攻撃をかわし、「事実じゃん」とさらに面白そうに目を細めた。
海緒を見ると、彼女はサンドイッチを掲げたまま、思考が停止したように瞬きを繰り返している。
……最悪だ。
自分の「他人を寄せ付けない性分」を、よりによってこんな形で暴露されるなんて、穴があったら入りたい。
今まで、どれほど熱烈なアプローチを受けても、そこに感情が伴わない「手作り」は重荷でしかなかった。
けれど、海緒の作るものは違う。
不格好でも、いびつでも、それを口にする瞬間の俺は、自分でも制御できないほど浮き足立っているんだ。
「……海緒、あのな。それは、その……」
言い訳を探せば探すほど、顔の熱が引かなくなる。
俺は居心地の悪さを誤魔化すように、残りのサンドイッチを乱暴に口に放り込んだ。
お前だからだ、なんて。そんな恥ずかしい本音、今はまだ、飲み込んでおくしかない。
