5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。



「おーい、海緒!」


昼休みのチャイムが鳴ると同時に、
俺は自分の教室を飛び出していた。

あの事件以来、俺の中で決めたルールがある。

それは、海緒が屋上に来るまでの間に変な奴に絡まれないよう、必ず彼女の教室の前まで迎えに行くことだ。

廊下を歩けば、「なんでテニス部のエースがわざわざ?」なんて訝しげな視線が突き刺さる。

けれど、今の俺にはそんな外野の目なんてどうでもよかった。むしろ、俺が彼女を特別に想っていることを周囲に見せつけられるなら、それでいいとさえ思っている。


『お待たせしました! 行きましょっか、翔先輩』


教室から出てきた海緒が、弾んだ声で俺に駆け寄る。

以前の彼女なら、周りの視線を気にして縮こまっていたはずだ。けれど今の海緒は、好奇の目に晒されても、俺の隣で前を向いて歩いている。

あの日、自分の過去を曝け出したことで、彼女を縛っていた「怯え」という鎖が少しずつ解けてきたのかもしれない。


「ああ。……今日も、佐原が屋上で腹空かせて待ってるぞ」

『ふふ、またパンの争奪戦ですね』


俺に並んで歩く海緒の足取りは、驚くほど軽やかだ。
その横顔を盗み見ながら、俺は心の中で小さくガッツポーズをした。

まだ「恋人」じゃない。けれど、この廊下をこうして二人で歩ける時間が、今は何よりも愛おしかった。