5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。



「……そんなこと、ないと思うけどねえ」


いつも通りの、どこか気の抜けたようなテンションで佐原がそう言った。

あまりに軽やかな否定に、海緒はぽかんと口を開けて固まっている。


『え……?』

「だって、海緒ちゃんのことを誰よりも大切にして、誰よりも大好きなやつ、今ここにいるんだもん」


心臓が、跳ね上がった。


「おい、佐原……っ!!」


俺は顔が火が出るほど熱くなるのを感じながら、
隣にいるこいつを鋭く睨みつけた。

よりによって、今、このタイミングで何を言ってんだ、こいつは!

けれど佐原は悪びれる様子もなく、
ニヤニヤとした笑みを俺に向けてくる。


「えー、いいじゃん。ちゃんと言葉にしないと、海緒ちゃんには伝わんないよー?」

「……っ、限度ってもんがあるだろ!」


俺は必死に声を荒らげて誤魔化そうとしたけれど、
意識は隣に座る海緒に釘付けだった。

俺の、海緒への気持ち。

隠してきたつもりはないけれど、こんな風に、
彼女が自分を「汚れた」なんて言った直後に突きつけられるなんて。

恐る恐る海緒の方を振り返ると、彼女はまだフリーズしたまま、潤んだ瞳で俺を見つめていた。

彼女の真っ白な頬が、じわじわと林檎のように赤く染まっていく。

俺の喉が、熱く乾く。

……違う。汚れてるなんて、一度だって思ったことはない。

お前がどんな過去を背負っていようが、
俺が今、お前をどう思っているか。

佐原にバラされたこの形は最悪だけど。