5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。



「翔ー。あと海緒ちゃん。男の方は一通り片付けたけど……そこに残ってる女、どうしてほしい?」


あれだけの人数を相手にしたというのに、戻ってきた佐原の顔には傷どころか、服の乱れひとつない。

ただ、その瞳には光が一切なく、
見たこともないほど冷え切った殺気が宿っていた。

今のこいつなら、殴れと言えば躊躇なく殴るし、殺せと言えば本当に実行してしまうだろう。

親友である俺ですら、背筋が凍るほどの「静かな狂気」を感じた。

俺は、腕の中でまだ小刻みに震えている海緒の肩を、
これ以上何も寄せ付けないように強く抱き寄せた。


「……海緒。お前は、どうしたい?」


俺の問いかけに、海緒は答えに窮し、迷うように視線を泳がせた。

その沈黙をどう受け取ったのか、佐原は「そっか」と短く呟くと、三日月のような笑みを浮かべて女たちに歩み寄った。


「んー。でもさ、君たちも海緒ちゃんのほっぺ、叩いたよね? だったら、自分たちが叩かれても文句は言えないよねー?」

「ひっ……や、やめて……っ!」


泣き叫ぶ女たちの悲鳴なんて、今の佐原の耳には届いていない。

あいつの手は、一度だって止まらなかった。
どれだけ泣き喚こうが、なりふり構わず抵抗しようが、機械的な正確さで、容赦のない平手打ちを叩き込み続ける。


「痛い? やめろ? ……なあ。海緒ちゃんがそう言った時、お前らはやめたのかよ」


氷のように冷たい声が、旧校舎の教室に響き渡る。

佐原の瞳は笑っていない。
ただ、海緒が受けた痛みと恐怖を、そのまま倍にして叩き返しているかのようだった。

俺は、その光景から海緒の目を逸らさせるように、彼女の頭を俺の胸へと強く引き寄せた。