5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。



「佐原。男の処理、頼んでいいか」

「任せろ。……こいつら、自分たちが何をしたか、骨の髄まで理解させてやるから」


佐原が冷徹な笑みを浮かべて男たちの前に立ちはだかるのを確認し、俺は女二人には一瞥もくれず、真っ先に海緒の元へ駆け寄った。


「……海緒!」

『か、ける……せんぱ……いっ……』

「待たせてごめん。怖い思いさせて、本当にごめん。……もう大丈夫だから、な」


震える彼女を視界に入れた瞬間、心臓が千切れそうになった。

俺は迷わず着ていたジャージのチャック下ろし、剥き出しになった彼女の肩を包み込むように羽織らせた。

ふと見えた彼女の拳は、強く握りしめすぎたせいで血が滲んでいる。


『……っ……き、嫌いに、ならないで……っ……!』


縋り付くような、悲痛な叫びだった。

テニスコートで別れてからのわずかな時間に、彼女はどれだけの地獄を見て、どれほどの絶望に耐えてきたんだろう。

男たちに囲まれ、あんなにパニックになっていたはずなのに。

俺の体に触れることさえ怖いはずなのに、海緒は必死に俺の服を掴み、壊れ物を抱くように抱きしめて離さない。


「嫌いにならないで」


その言葉が、何を指しているのかはまだ分からない。
汚されたと思ったのか、無力な自分を情けないと思ったのか。

けれど、答えなんて一つしかなかった。

俺は彼女を壊さないよう、それでいて二度と離さないという決意を込めて、優しく抱きしめ返した。


「嫌いになんてならない。何があっても、絶対にだ。……一旦、ゆっくり呼吸しよう。俺がついてるから」


呼吸がようやく落ち着いてきたのを見計らい、
俺は海緒の体を少しだけ離して、あらためて彼女の顔を覗き込んだ。

その瞬間、俺の視界に、白すぎる肌の上で無惨に赤く腫れ上がった頬が飛び込んできた。


「これ……どうした。何された……?」


怒りで声が震える。俺が指先を伸ばそうとすると、海緒はびくりと肩を揺らし、けれどすぐに無理やりな笑顔を作った。


『わ、私が……余計な抵抗、しちゃったから。ビンタ……されちゃって。バカだよね、大人しくしておけばよかったのに……』


「へへっ」と、今にも消えてしまいそうな掠れた声で笑う海緒。

彼女は震える手で乱れた髪を耳にかけ、爪が食い込んで血が滲んでいるその手を、隠すように再びぎゅっと握りしめた。

自分を責めて、笑って、痛みを隠そうとする。

そんな彼女の健気さが、今の俺にはどんな凶器よりも鋭く胸に刺さった。


「……バカなんて言うな。海緒は、何も悪くない」


俺は彼女の血の滲んだ拳を、壊れ物に触れるような手つきで、ゆっくりと包み込んだ。

大人しくなんてしていなくていい。戦わなくていい。

これ以上、この子が自分を傷つける必要なんて、どこにもないんだ。
俺の中で、犯人たちへの「制裁」の熱が、さらに一段階、黒く濁った色に変わるのを感じていた。