5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。



「……佐原」

「なに」


短く返した佐原の声には、いつもの軽薄さなど微塵もなかった。

俺は冷え切った部室の床を見つめたまま、低く、地這うような声で告げる。


「海緒を連れ去った女を見つけたら、絶対に逃がすな。……どんな手を使ってでも」

「……もちろん。てか、俺も許す気なんて一ミリもないから。どうせあいつだろ、検討はついてる」


佐原が吐き捨てた言葉が、静まり返った部屋に鋭く突き刺さる。

俺がこれほどまでに激しい怒りを剥き出しにしたのも。
佐原がこれほどまでに冷酷な響きの声を出したのも。
きっと、出会ってから今日が初めてだ。


――許さない。
絶対に、許さない。


俺は、水溜まりから拾い上げたシュシュを、指の関節が白くなるほど強く、ちぎれんばかりの力で握りしめた。

あんなに怯えながらも、俺を信じて「翔先輩」と呼んでくれた、あの子。

ようやく取り戻しかけたあの笑顔を奪い、泥にまみれさせた報いは、必ず受けさせてやる。

掌に食い込むシュシュの感触が、俺の中の凶暴な独占欲と使命感を、真っ赤な炎のように燃え上がらせていた。