5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。



「……ごめん。あんな、わがまま言って」


佐原が去り、再び訪れた二人きりの空間。
俺は熱くなった顔を隠すように、そっぽを向いて謝った。


『ううん、全然……』


海緒もまた、俯いたままお弁当の端を突いている。気まずいような、けれどどこか甘いような、妙な空気が俺たちの間に漂っていた。


「……佐原がお前に近づくのを避けたくて。思いついたのが、それしかなかったんだ」


口にしてから、自分でもなんて子供じみた言い訳なんだと情けなくなった。

他の男を牽制するために、彼女に食べさせてもらうなんて。

そんなの、守るどころか俺が一番彼女を困らせているんじゃないか。
こんな、独占欲が透けて見えるような言い訳が、通用するはずがない。

海緒に嫌われたかもしれない――。

そんな不安が、さっきまでの幸福感をじわじわと塗りつぶしていく。
だが、隣に座る海緒からは、意外な言葉が返ってきた。


『……嬉しかったし。それに、守ろうとしてくれたんだよね?』


海緒は、まだ赤みが引かない頬を綻ばせて、
俺を真っ直ぐに見上げた。

あんなに強引に距離を縮めたのに。
本当は、男性という存在に恐怖を覚える彼女にとって、パニックになってもおかしくない状況だったはずなのに。


「嬉しかった」なんて。
「守ろうとしてくれた」なんて。


嘘でも、俺を気遣っての言葉でもないことは、
その潤んだ瞳を見れば分かった。

彼女は俺の情けない独占欲すら、
自分への「優しさ」として受け止めてくれたんだ。

……ああ、ダメだ。
きっと、この子に俺は一生敵わない。

俺が彼女を守っているつもりでいて、実は俺の方が、彼女の圧倒的な純粋さに救われている。

胸の奥が、熱い何かに静かに侵食されていく。
俺はもう、溢れ出しそうな愛おしさを抑え込むのに必死だった。


「……お前、本当に……。……そう思ってくれるなら、良かった」


震えそうになる声をなんとか整えて、俺は彼女の視線から逃げるように天を仰いだ。

青空が目に染みる。

次に彼女に触れる時は、恐怖を上書きするためじゃなく、この溢れる想いを伝えるためでありたいと、心から思った。