5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。



『永瀬先輩、お待たせしまし……たぁ!?』


屋上の扉を開けた海緒が、素っ頓狂な声を上げた。

驚くのも無理はない。いつもの特等席に、
昨日紹介したばかりの佐原が当たり前のような顔で座っているのだから。


「ごめん。こいつが今日だけはどうしても来るって聞かなくて。……何かあったら首根っこ掴んですぐに追い出すから、安心しろ」

「ちょちょちょ、翔! そこまで言わなくて良くない!?」


佐原の騒がしい抗議を無視して海緒を促すと、
彼女は少しだけ困ったように眉を下げて笑った。


『まあまあ……お昼、食べましょう?』


至って冷静に振る舞っているように見える海緒。
だが、俺の目は誤魔化せない。

お弁当を広げ、箸を持とうとする彼女の指先が、微かに、けれど絶え間なく震えていることに。

……やっぱり、まだ怖いんだな。

そう思うと、佐原を連れてきた自分に苛立ちが募る。
だが次の瞬間、俺は自分の心臓が大きく跳ねるのを感じた。


隣に座る海緒の距離感が、いつもより、ずっと近い。
触れ合うか触れ合わないかの距離。

無意識なのか、それとも俺に助けを求めているのか。
肩越しに伝わってくる彼女の気配が、痛いくらいに俺の理性をかき乱していた。


『それで、その……佐原先輩は、何か用事があった……んですか?』


お弁当の卵焼きを口に運びながら、
海緒がおずおずと尋ねる。もっともな疑問だ。

用もないのにこの神聖な屋上に居座る男を、俺も今すぐつまみ出したい。


「いや? 俺はただ、君と話す時の翔がどんな感じなのか気になってさ」

「……っ、おい!」


俺の制止をさらりと流し、佐原は楽しげに目を細めた。
対する海緒は、首を小さく傾げて不思議そうに答える。


『そういうことでしたか。……でも、特に皆さんとお話しされている時と、お変わりはないと思います』

「へえ? 変わりない、ねえ……?」


佐原が俺の顔をジロリと見て、含みのある笑い声を漏らす。

――佐原、こいつ。

俺の気持ちをすべて知った上で、この状況を面白がってやがる。


「お前、いいから黙って食え」

「えー? 翔、耳まで赤いよ?」

「うるさい。……食うか、屋上からダイブするか選べ」


海緒の前でこれ以上ボロを出したくない俺は、
強引に会話を打ち切る。だが、当の海緒は

「何のことだろう」とでも言いたげな瞳で俺たちを見比べていて、その無防備さにまた心臓が焼かれるような思いがした。