その後、スポーツドリンクを無事全員に配り終え、海緒はマネージャーとして精一杯働いてくれた。
慣れない手つきながらも、一生懸命に部員たちの間を回る彼女のひたむきな姿に、誰もが釘付けになっていた。
「……途中まで一緒に帰ろうと思ったけど、佐原もいるんだ、大丈夫か?」
帰り際、俺は小声で海緒に確認する。
良くも悪くも、佐原は空気が読めない。あの距離感バグは、海緒にとってまだ負担が大きいはずだ。
『先輩がいるなら、大丈夫です。それに……先輩以外の人とも話せるようにならないと、転校してきた意味が無いですから』
「……そっか。無理な時は容赦なく、あの仕草を見せていいからな。俺への合図にもなるから」
海緒は小さく微笑んで頷くと、手首につけていたゴムで、さらりと髪を一つにまとめた。
……ポニーテール。
露わになったうなじと、汗が流れる白い首筋。
無防備すぎるその姿は、今の俺には刺激が強すぎた。不意に視線をどこへ向ければいいか分からなくなり、鼓動がうるさく跳ねる。
「翔ー! 転校生ちゃーん! おまたせっ!!」
背後から、空気を切り裂くような佐原の明るい声が響いた。
こいつのデリカシーのなさに、ここまで感謝する日はもう二度とないだろう。
おかげで、爆発しそうだった理性がなんとか繋ぎ止められた。
「……おう、遅いんだよ。行くぞ」
俺はわざとぶっきらぼうに答えて、海緒の横に並んだ。
