『……嫌、ですか』
「ん?」
掠れたような海緒の声に聞き返すと、彼女は俯いたまま、さらに小さく震えた。
『やる気があっても……そんな、怖がってる仕草を見せてしまう私は……嫌いですか……?』
「……っ」
心臓が、ドクンと大きく波打った。
違う。違うんだ、海緒。
そんなふうに思わせてしまった自分に、猛烈な後悔が押し寄せる。
君を悲しませたいわけでも、追い込みたいわけでもない。
ただ、俺は――。
君がまた、俺の知らない地獄の底に落ちてしまうのが、たまらなく怖いだけなんだ。
昨日、独りきりで震えていた君を、もう二度と見たくない。
「……嫌いなわけ、ないだろ」
今すぐ抱きしめてやりたい衝動を、
俺は拳を握りしめて必死に抑え込んだ。
ここで触れたら、彼女はまた怯えてしまうかもしれない。
「怖がるのは、お前が一生懸命向き合おうとしてる証拠だろ。……それを嫌うなんて、ありえない。むしろ、そんなふうに無理をさせてる俺自身に腹が立ってるだけなんだよ」
目線を海緒の高さまで下げて、真っ直ぐに彼女の瞳を覗き込む。
触れられない代わりに向けるその眼差しに、持てる限りの熱量と誠実さを込めた。
『……すみません。被害妄想がすぎました』
「そんなことない。ゆっくりで大丈夫だから」
俯いていた海緒が、少しだけ顔を上げた。
零れ落ちた涙も、弱ったときに見せる仕草も。
そのすべてが、海緒が今の自分を乗り越えようともがいている、成長の証なんだ。
愛おしくてたまらないその姿を、俺はすべて受け止めたいと思った。
「……よし。じゃあ、今日は全員分のスポーツドリンクを作って、コートまで持ってきてくれる?」
落ち込んだままにさせないよう、あえて「仕事」を任せてみる。
すると、海緒の瞳にパッと光が宿った。
『……! も、もちろんです!! 頑張ります!』
さっきまでの不安が嘘のように、やる気に満ち溢れた海緒。
そのあまりに素直で、真っ直ぐな反応に、俺はもう笑いを隠しきれなかった。
「ははっ、いい返事。……無理しすぎるなよ?」
