5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。


『……嫌、ですか』

「ん?」


掠れたような海緒の声に聞き返すと、彼女は俯いたまま、さらに小さく震えた。


『やる気があっても……そんな、怖がってる仕草を見せてしまう私は……嫌いですか……?』

「……っ」


心臓が、ドクンと大きく波打った。

違う。違うんだ、海緒。
そんなふうに思わせてしまった自分に、猛烈な後悔が押し寄せる。

君を悲しませたいわけでも、追い込みたいわけでもない。
ただ、俺は――。

君がまた、俺の知らない地獄の底に落ちてしまうのが、たまらなく怖いだけなんだ。

昨日、独りきりで震えていた君を、もう二度と見たくない。


「……嫌いなわけ、ないだろ」


今すぐ抱きしめてやりたい衝動を、
俺は拳を握りしめて必死に抑え込んだ。

ここで触れたら、彼女はまた怯えてしまうかもしれない。


「怖がるのは、お前が一生懸命向き合おうとしてる証拠だろ。……それを嫌うなんて、ありえない。むしろ、そんなふうに無理をさせてる俺自身に腹が立ってるだけなんだよ」


目線を海緒の高さまで下げて、真っ直ぐに彼女の瞳を覗き込む。
触れられない代わりに向けるその眼差しに、持てる限りの熱量と誠実さを込めた。


『……すみません。被害妄想がすぎました』

「そんなことない。ゆっくりで大丈夫だから」


俯いていた海緒が、少しだけ顔を上げた。
零れ落ちた涙も、弱ったときに見せる仕草も。

そのすべてが、海緒が今の自分を乗り越えようともがいている、成長の証なんだ。
愛おしくてたまらないその姿を、俺はすべて受け止めたいと思った。


「……よし。じゃあ、今日は全員分のスポーツドリンクを作って、コートまで持ってきてくれる?」


落ち込んだままにさせないよう、あえて「仕事」を任せてみる。

すると、海緒の瞳にパッと光が宿った。


『……! も、もちろんです!! 頑張ります!』


さっきまでの不安が嘘のように、やる気に満ち溢れた海緒。

そのあまりに素直で、真っ直ぐな反応に、俺はもう笑いを隠しきれなかった。


「ははっ、いい返事。……無理しすぎるなよ?」